幕間:無貌の死神
「発電所だって」
「マジで自重しねぇ気だぞ、あの小僧」
「ファンタジーが死んだな」
日本人たちの街。
そこではグランフィストの動向が話し合われていた。
グランフィストで買収した幾人の文官から流れてくる情報は一瞬で街全体に広まっていくようになっており、逆にグランフィストに情報が流れる仕組みになっている。
実際は上層部が情報の一部を隠したり、全くのでたらめを混ぜたりしているのだが、そんな事は一般レベルの彼らが知る由も無かった。
相川ら日本人勢力は自給自足を成功させており、備蓄は無いものの外部からの補給に頼らない“国”を作り上げている。
政治的・財政的に独立した状態なので、国と呼ぶのも大きな間違いではない。
本来なら国の中に他の独立国がある状態は異常なのだが、グランフィスト側もいくつかの思惑があり、彼らを放置している状態だ。
相川らはグランフィストが産業革命の方向に舵取りしたことに満足しつつ、今後の方針を相談していた。
「ここまでは計画通り、と言いたかったんだけどな」
「ああ。まさか発電所にまで手を付けるとは。せめて蒸気機関までだと思っていたんだけどな」
「無線通信には手を付けられると思うか?」
「……さすがに、基礎も何も無しにそこまでは出来ないだろう?」
「魔法って言葉を使えばできそうなのが怖いな」
彼らは技術的な進歩により、グランフィストそのものを混乱に陥れようとしていた。
怒りがもたらす領主に復讐をしたいという思いと、良心が叫ぶ領民に迷惑をかけられないという良識や自制心の狭間で出した結論だ。
産業革命を起こすことでグランフィストの負荷を果てしなく増幅することが狙いの一つである。
もちろん、刺激を与える過程で自分たちの利益を確保するのも狙いの一つだが。
あと、このままでは産業革命の旗手として彼らが蛇蝎の如く嫌う今の領主が歴史に名を残すので、彼には早すぎた失敗者として名を残してもらう予定でもあるが。
暗殺など物騒な手段はしないけれど、その一歩手前のプレッシャーは与える予定にもなっている。
最初はグランフィストの住人を焚きつけて市民革命を起こす気でいたが、グランフィストは独自に植民地を持っている訳でもないし、中世ヨーロッパの各国とは条件が違いすぎる。
某剣と魔法のTRPGでは英雄王の国で革命を起こした天才軍師がいたが、ああいった真似は自分たちには出来ないだろうと彼らは結論付けている。
さすがに多くの人を直接手に掛けるほどの、命を奪うような結論は簡単には出せなかったのである。
ただし。
たった一人。
こいつは消すべきではないかという意見もあった。
「殺さずに捕える事ができればやるんだけどな」
「今更だぞ。諦めろ。≪召喚≫を防ぐ手段は今のところ見付かっていない。あの裏切り者をどうにかしようと思えば、殺すしか方法は無いだろ」
「ここに来て制御も予測もし難くなったよな、あいつ。しかし、なんでガン○ム?」
「独立戦争を挑んだ小国って意味では似たようなものだからじゃないか?」
「説得は?」
「出来るはず無いだろ」
彼らの策は、まだ半ばであった。




