反撃と革命の狼煙
領主様は本気らしい。
本気で工業化を考えていらっしゃるようだ。
鍛冶ギルド、錬金ギルド、織物ギルド、その他多くの生産系ギルドに工場が造られるようになった。
もともと、ギルドは技術の継承を目的に作られたものだ。自前の子供じゃ技術を継承できない、そんな問題を解決する徒弟制のために弟子を斡旋するわけだ。そして技術はギルドに所属する「家」単位で保有するものだった。この辺は旧冒険者ギルドとは全然違う。
基本は家内制手工業なのだ。
それがギルド主体の生産活動をする為、『北極星』を真似たシステムを組み上げ、複数の家で一つの工場を受け持つように指導された。
これが工場制手工業である。
基本的に、チマチマとやるより一括で管理した方が効率は上昇する事が多い。
例えば欲しい素材を取りに行くとして、何かを一つ作るたびに素材を取りに行くより、一回でまとめて持って来て近くに置いておけば、移動時間が削減されるのである。
他にも物の一括管理ができれば全体の素材不足などを回避しやすくなり、どこかの家では物余りなのにどこかの家では物不足といった事が起きにくくなる。
あとは分業化である。
これまでは生産単位が家一つと小さかったので、何を作るにしても全員が全部の作業をできるような体制を取る必要があった。病気などで誰かが欠けるとその穴埋めを他の誰かがするのだが、少人数では替えを用意するのが難しい。
人数が多くなると同じ作業を受け持つ人間が複数いるので、同じ作業をしている他の誰かの負担を増やすことで対処可能になる。全体に影響が出にくくなるのだ。
また、作業が固定化されれば技術の習熟も早まるし、技術力の平均化、高水準化もしやすくなる。
工場による生産性の向上は、利害の問題やこれまでの秘密主義的な技術管理などの問題さえ解決できれば、有効な手法である事は間違いない。
他にも生産活動に必要な素材の確保、作った物を売るための市場の問題も存在するが、この世界はまだ物不足の傾向にあるから大丈夫だと思いたい。
日本人が市場を荒らして物が売れなくなったのは、どっちかというと貨幣不足や銀行の様な金の貸し出しを行う金融機関の脆弱性があったからだからな。そうなると銀行関係の整備も進めないと経済活動に悪影響が出てくるのかな? 保険なんかの金融商品も含めて提案しておくか。……細かい話は全く分からないけどな。
まったく、問題は山積みだ。
こちらはおそらくいい方向に刺激を与えるだけ与えたのだし、起きた問題に関してはこちらの住人に任せておけばいいか?
何でもかんでも俺がどうにかしないといけないってことも無いだろ。
そんなふうに資料作成や各種提案、今後のための根回しをしていると、ダンジョンに向かう時間の確保が難しくなる。
桜花たちには俺抜きでダンジョンに行くように指示しているので経験値の差が出るんじゃないかと思っていたが、実際に桜花たちはレベルを1つ2つ上げていて、そろそろイーリスに並ばれるんじゃないかと思うほど時間が経っていた。
うん、俺もそろそろ産業革命を切り上げて冒険者に戻ろう。
じゃないと切ない。
俺の本業は冒険者なんだよ。