革命の兆し③
しかし、革命はやっぱりないか。経済戦争の方がしっくりくるかな。日本人から命の奪い合いに持ち込むとは思いたくないし。
それに、このグランフィストの識字率は結構高い。寺子屋のような場所もあり、読み書き計算は誰でも出来るといった雰囲気がある。ゴラオンだって衛兵として報告書を書いているのを見かけたしな。だったら革命なんてやらないだろう。
たまに違うんじゃないかなって思う事がある。「大衆が愚かな状態で民主主義なんてできるもんじゃない」って意見。
民主主義への変遷は民衆が愚かな方がやりやすいと思う。革命や民主主義運動って初期段階では衆愚政治なんだよね。だから綺麗事に騙される民衆がいないと、改革しようっていうパワーが足りなくなる。少数の賢い、賢しい人間と、愚かな大衆がいてようやく実現するのが革命であり民主主義だと思う。
だって、地球の革命だって最初から上手くいった訳じゃないんだよ。革命家が何度も馬鹿な事を繰り返し、無駄に血を流し、少しずつ積み上げていったんだ。「大衆に知恵が必要だ」なんて、いきなり全部行く条件を提示したって机上の空論というより妄想論にしか見えないよ。
いろいろ学んだ大衆がいると革命が上手くいかないっていうのは、現代日本を見れば分かりやすいかな? あの国民を見て革命ができるなんて考える人間はまずいないと思うよ。
まぁ、経済戦争だって十二分に厄介なので、冒険者ギルド『北極星』のギルマスとして少しは仕事をしようと思う。
経済戦争には経済戦争で受けて立とうという話である。
そうして不況に打ち克とうというのが目的になる。
今回の件で、商人がどんな反応をしているのかをギルド出入りに商人経由で調べてもらうと同時に、相手のお株を奪う為にこちらも高速輸送手段並びに遠距離情報伝達手段を用意しようと思うのだ。
とは言え、実際に動くのは領主に任せるつもりだ。
こちらはシンクタンクかアイディアマンとして知恵を貸すだけである。
……かなり大きく見栄を張る事になるが、それぐらいの意気込みが無いと動きにくいんだよね。
正直、領主サマが自力でどうにかしてくれるなら絶対にその方がいいし。
真面目な話、この世界中世よりも確実に上の、近代レベルの技術力を持っていると思う。
大量に資源を確保できるダンジョンがある分、外に意識が向かないので何かと発展に都合が良かったのだろう。
都会なグランフィストには街灯があるし、それを維持する電気替わりの魔法がある。
科学技術というなら錬金術が代用できる部分が多く、医療分野では瞬間的に傷を癒す回復系の魔法がある分だけこちらの方が上だったりする。俺は世話になった事が無いけど、魔法に頼らない医者もちゃんといるみたいだよ。神官がレアってのはいい事なのかね?
貴族といっても世襲議員のようなものだし、大衆は小さな不満を抱えつつも大人しく従っている方が得だと考える。
市民議会は無いけど、ジャニスさんの位置や立ち回りを考えると、民衆を無視した政治という訳でもなさそうだ。
「という訳で、発電所と電線網による都市内部の電気通信を提案します。ついでに街灯の電灯化も」
「はい?」
「詳しい事はこちらに。この程度は実験により実行可能であると判断しました」
魔法があるなら、魔法でいくつかの技術は代用可能だよね? 電磁石の実験は済ませたので、モールス信号ぐらいは実現可能と判断した。
もちろんモーターと発電機の試作品も作ってみた。一部の工業高校では発電機やモーターの設計を習うのだよ。図面を引くのが大変だったが、何とかしてみた。……放熱関係の計算が間違っていたらごめんなさいという事で。耐久性がっ!
本来ならこういった知識は封印しておきたかったのだが、他所の連中が徒に広めて国を混乱させるぐらいなら、貴族に知識を売り渡した方がマシだと俺は考えた。
最悪は俺が貴族に監禁されるかもしれないという懸念もあるけど、たぶん大丈夫という根拠のない自信が俺を動かした。
いや、ギルドやこの街への愛着かな?
なんだかんだ言ってここに来て1年ぐらい経っている。おそらくだが自分の故郷を守りたいと思うのは変な話でもないだろうし。
グランフィストの知り合いも増えたし、仲間もいる。喧嘩別れになったような日本人よりも俺にとっては大切な場所なんだよ。
自分でもちょっと意外だけど、精一杯頑張りますかね。




