革命の兆し①
「駄目だな。前回のはちゃんとした理由があったが、理由もなく少額で衛兵が冒険者に雇われると分かれば問題しかない。それが神官なら尚更だ。
さすがに公私混同は出来ん」
アゾールさんに神官の派遣をお願いしてみたが駄目だった。
前は衛兵の都合で仲間集めができないからだったけど、今は仲間を集めるのが自由なので貸し出す理由が無いと言われた。
まぁ、もしも衛兵が神官の貸し出しサービスなんて始めれば他の冒険者も殺到する。
俺を特別扱いできないし、もし特別扱いすれば他の冒険者からなんでだと不満が続出するので個別対応もできない。
ちゃんとした理由で断られたので、ここは素直に引き下がる。
俺だって手抜きの為に人を貸し出すなんてやらないだろうからね。
「それはそうと、ジャニスの奴がレッドに相談したいことがあるって言っていたな。
直接話をしに行っていないようだし急ぎの話ではないだろうが、一度顔を見せに行った方がいいかもしれん」
ジャニスさん?
俺に相談って言うのがどんな話なのか気になるし、少し話をするくらいなら構わないかな。
できるだけ恩を売っておかないと、いざって時に助けてもらえないかもしれないしね。
「レッドさん。わざわざ来ていただいてすみません」
「いえ。領主様のお役に立てるなら喜んでお手伝いさせていただきますよ」
理由は全く分からないが、ジャニスさんの所に行ってみた。
ジャニスさんは疲れた様子で、よく見ると目の下に隈ができている。寝れていないのかな?
「こういった事をレッドさんに相談するのも筋違いと思い、直接伺う事をしないでいたのですが――」
ジャニスさんの話をまとめると、最近は日本人が交易を行っているというのだ。
こちらのダンジョンで手に入った物を他の都市で高く売り、向こうの都市にあるダンジョンで手に入った物を安く買い漁っているらしい。
特に食料品関係を集めているようで、現地の日本人ともつながりを持ち、少なくない量がここの日本人に購入されているようだ。
その結果、他の商人の商談に大きく影響が出ていて、今までと同じ値段で物が買えない、売れない状況にあるという。
これまでグランフィストで彼らのダンジョンアイテムを購入しないようにしていたことが完全に裏目に出た形だ。相手の在庫は膨大で、このままでは俺達『北極星』の仕事もグランフィストで流通する分以外しか必要とされなくなる恐れがある。
かなり、不味い話を聞かされてしまった。
対抗するには相手よりも物流面の強化をするしかないのだが、それも難しいらしい。
「何をどうすればそんな事ができるのか分かりませんが、相手は我々の10倍近い速度で都市間の行き来を可能にしているらしいのです」
「ゴーレムを使ったんだと思いますけど?」
「はい?」
「ですから、ゴーレムを使ったんだと思いますよ」
適当なゴーレムを『荷運び』で作り、ダンジョンでレベルを上げて『倉庫番』にして容量を拡張。あとは≪アイテムボックス≫に商品を入れて寝ずに走らせれば、通常の数倍の速度で移動が可能。MP供給用の『人形遣い』は背中に籠でも背負わせて、その中に入っていれば何とでもなるよね。
途中まで馬車を使っているのはただの偽装じゃないかな?
俺はぱっと思いついたことをジャニスさんに説明してみる。
「いえ、そもそもゴーレムのジョブを制御することは――」
「日本人なら普通にできると思いますけど。まぁ、こちらの『人形遣い』にそれが出来るかどうかって言われたら、たぶん出来ないんだろうなと思っていましたけどね。
あ、私も『人形遣い』ではありませんから、ちゃんと確認したわけではないんですけどね」
『人形遣い』がゴーレムの『荷運び』を量産できるなら、軍がそれを採用しない理由は無いからね。別に不思議な話ではないと思う。
たぶん、日本人人形遣い特有のスキルみたいなものだと思うんだが。
ジャニスさんは俺の説明に頭を抱え、今後の事を思い絶望的な表情を浮かべた。
これ、下手すると日本人に物流関係のアドバンテージを握られているからね。グランフィストで物不足が始まるかもしれない。ついでに職にあぶれた連中が増える可能性もある。
解決策としては、他の都市の日本人にお願いして物流用ゴーレムを量産するしかないんじゃないかな?
グランフィストの連中が根回ししている可能性もあるけど、現地の貴族を介した注文なら何とかなりそうな気もする。ここの日本人に頭を下げたくないなら、他の貴族に頭を下げる方が精神的に楽なんじゃないかな。
俺としてはどっちでもいいけど。
「ご相談に乗って頂き、ありがとうございます……」
別れ際のジャニスさんは出来る文官といった風でなく、仕事に疲れ切ったサラリーマンに見えた。
そんなジャニスさん相手だからこそ言えなかった事もある。
たぶん、連中の狙いって物流に支配じゃないと思うんだ。
奴らの狙いは、おそらく市民革命の様な気がするんだよね。




