格闘家
ララを仲間にする方向で動いているが、領主側の結論が出るまでどれだけの時間がかかるか分からない。
その間も生活のために、俺たちはダンジョンに潜らないといけない。
「ですのー」
「それの語尾と言うか、喋り方……変じゃないか?」
「ただのキャラ付けですの。喋り方を矯正するための癖みたいなものですのよ。それにたとえ変でも、喋り方に癖があると覚え易いの」
ララの発言は、どこのデスノさんだと言ってやりたい。
彼女は見送りに来るけど、ダンジョンに連れて行くことはできない。不貞腐れているように見えるが、俺の中で彼女は腹黒一色なのでそれも演技じゃないかと思ってしまう。
出会いで印象が完全に固定されているのだ。何を言われても今更である。
第一印象は大事。俺も気を付けよう。
メンバーはいつもの4人に、入れ替わりのスレイさん(24歳・男・『格闘家』)を加えた5人である。
入れ替わりメンバーについては俺が決めるのではなく、受け持ちのクランが決めている。なので『格闘家』が入った事に他意は無い。
スレイさんはサイファさんほどのベテランではなく、レベル6の、中堅程度の実力者だ。レベル6と言う事で2回目のジョブチェンジが終わったばかりである。経験値的には俺たちより少し強いはずだが、レベル合計やスキル的には俺たちの方が上といったところ。総合的な戦闘能力で言えば互角かな?
イーリスが育ってきた事もあり、強い人を入れる理由が弱くなったのだ。経験値的に美味しくないし。もしも前の時のように多くの敵を相手にすることがあろうと、余裕は無いかもしれないが、今のメンバーなら対処できると考えている。護衛役は必要ではない。
だから各クランには最初の時のように「強い人希望」から「新人じゃなければいい」と指定を変えている。そのため強い人が来ることもあるけど、今回はそこそこの人が派遣されたわけだ。
「よっし! ベテランの俺様がお前らを守ってやるからな! 油断は駄目だが安心していいぞ!!」
「よろしくお願いします」
「お願い、します……」
「おう! 任せておけ!!」
ステータス的な実力はさほど変わらないと思うけど、戦闘回数とか、経験は俺たちより上の人だ。実力以上に頼りになるとは思う。
だが、筋肉ムキムキの大男である。誰が見ても分かるほどに男なので、イーリス達は困り顔だ。相手のクランが男性限定のクランなので男が来るのはしょうがない。
冒険中のトイレは男女別じゃないから、特に泊まりだと大きい方まで近くですることになるし。一緒に行くのは苦痛だろう。
……一応ではなくちゃんとした男である俺がスルーされているのは甚だ疑問ではあるがな!
スレイさん本人はこっちの事情を多分わかっているようだが、それを表情に出して気を使うことまではしない。慣れろと、そう態度で言っている。
ま、今後も男と組むことになるかもしれないし、男女で長い時間を共にするならそういった事を気にするのは致命的だからなー。恋人相手なら俺も羞恥で死ねるかもしれん。もしくは性癖解放か。
ダンジョン中層での戦いはスレイさんのおかげで安定している。
スレイさんのスキル≪浸透撃≫は防御力無視ダメージ。固いストーンゴーレムとの相性はばっちりで、戦士系ジョブのスキル≪斬鉄剣≫よりも低コストで連発がきく。常時使い続けても問題にならない。
ストーンゴーレムをまかせっきりにしてもいいという事で、俺たちは他の事を集中して行えるのも助かる。
一撃は武器よりも軽いが、それは手数でカバーする。
攻撃力が低いなんて事は無い。
『格闘家』の上位ジョブ、『剛拳士』の更に上、『破壊拳士』のスレイさんはとにかく強い。回避能力はそこそこなのだが、平均的な火力が高いので、殲滅力がある。
これが俺や桜花などの魔法職だと、瞬間的な火力では勝てるけど長期戦に持ち込まれると負けそうになる。
一戦か二戦ぐらいなら召喚込みの俺の方が出せるダメージは上だろうし、直接対決でも負ける気は無い。だが、冒険者としてダンジョンで数日戦い続けるならスレイさんの方が確実に上なのだ。それが『格闘家』ジョブの強みである。
そしてスレイさんは新たに『獣使い』『機織り職人』のジョブを得たので、今後の伸びしろがまだある。どこまで成長するかは知らないけどね。
できればこの強いスレイさんを見て、イーリスが『格闘家』の有用性を理解してくれるといいんだけど。