幕間:外の世界
「へぇ。他の都市の日本人は上手くやっているんだ」
「ええ、残念ながら、グランフィストだけが上手くいっていないようですね」
ダンジョンに潜るのが仕事の冒険者だからと言って、世情に疎いのはよろしくない。
そんな訳で酒場に出かけた俺は、顔見知りの商人と“外”の話をしていた。
「北の地では火属性の魔術師と精霊使いが重宝されています。それに『使い捨てカイロ』なる商品を開発し、住人たちから絶大な信頼を得たようですね」
「ああ、あっちの人は知識チートに成功したんだ」
環境が違うと言えばそれまでだが、俺もいくつか便利商品をこちらで再現しようとしては売れないゴミを量産する結果になっている。
タル磨きに使う亀の子たわしとか、明治の日本で産まれたヒット商品だったんだけどな。
オセロやチェスは似たようなのが既にあるし、差別化ができない時点で駄目だった。ボードゲームの歴史は古いのでこちらはあんまり期待していなかったけど。と言うか、同じことを考えた奴がたくさんいて持ち込み先で苦笑いされたよ。
「南の砂漠では水属性が優遇されますからね。こちらでも日本人の重要性は揺るがなかった事が挙げられます。
なんでも、新しいオアシスを作った方までいるようです」
「え? 何をどうやったらオアシスなんてできるの?」
「枯れたオアシスを生き返らせたとか何とか。私も細かい話を聞いたわけではありませんが」
生活用水を自前で確保するために水属性を選んだ日本人が大量にいた南の方では、そのまま水屋として生きていける収入が確保された事もあり、ある程度レベルが上がるとダンジョンに行かなくなる奴が少なくないという。
そりゃあそうだろうな。誰だって命の危険があるところに行きたがるわけがない。
その後の話がどうなるか分からないが、そのまま水属性魔法の使い手が確保できなくなったらどうするんだろうね? その為のオアシスなのかな。
「東の地では多くの方がゴーレムを使った農業を始めたようですよ。水属性の魔術士も確保し、土地の開墾に力を入れているとか」
「こっちは農業チートか……」
「いえ、ゴーレムや魔法を使うのはチートではなく、ちゃんとした農法じゃないですか」
この世界だと魔法ありの農法も普通だったか。日本人的にはチートなんだけどな。
余談ではあるが、ゴーレムに農作業をやらせているので、この世界の農民が人口を占める割合は中世ヨーロッパなどより随分低いようである。
ゴーレムが国や都市から貸し出されているんだよね。
こうして他のダンジョン都市3つの情報が出てきた。
どの都市も片道で1月以上かかるので、日本人の感覚では情報の鮮度が消費期限切れになっている気もするけど、とにかくこれが外の最新情報である。
あと2つのダンジョンがあるはずだけど、その情報は入っていない。
残りは相当遠い所にあるようで、場所は分かるんだけどあと半年は情報が入らないだろうと言われてしまった。
この手の情報、たぶんグランフィストの冒険者を分裂させる一手のような気もする。
他所なら歓迎されますよ、他の人が地盤を作ったところで新生活を始めませんよ、という様な。
お零れに与った身としては、素直に感謝した方がいいんだろうけどね。
領主も嫌な手を打つよなと思ってしまった。




