資料室
「なぁ、やっぱり桜花ちゃんだけでもこっちに回せないか?」
「面白い冗談だな、ゴラオン」
パーティ解散が決まって。ゴラオンは新しいメンバーとしてレベル5の『鎧騎士』『治癒神官』『魔法戦士』を仲間に加えた。
経験値的には格上、全員がジョブチェンジを一回やっているので、新メンバーが足手まといになる事は無いだろう。
問題は広範囲攻撃が得意な『魔術師』がパーティにいないことで、ゴラオンは桜花の引き抜きをこちらに打診してきた。
もちろん、笑顔で断ったが。
『魔術師』の数は思ったよりも少なく、俺が衛兵や兵士のジョブ解放をしたときに3%いるかいないかといったレベルであった。これは『召喚士』もそうなのだが、魔法使い系のジョブ持ちは思ったよりも少ないのである。
他の少ないジョブは『精霊術師』『神官』『人形遣い』の合計5ジョブで、このあたりも3%前後といったところ。逆に多いのが『戦士』『格闘家』『弓兵』で、こいつらは15%以上はいると思うよ。他のジョブは7%ぐらいだと思う。
ジョブは結構偏っているのだ。
そんなわけで運よく神官系のジョブ持ちを確保できたけど魔術師系を確保でき無かったゴラオン達。
『魔法戦士』は属性付き強攻撃が出来るだけのジョブなので単体相手には強いけど団体さん相手だと辛いよね。あとはもう『弓師』のキュロスが範囲攻撃スキルを取るぐらいしか……ああ、そうだ。
「ゴラオンって狼をテイムしていたよね。そっちを魔法系にシフトすれば? 狼なら精霊獣系統にジョブチェンジできるでしょ」
「そうなのか?」
「そうなのです」
すっかり忘れていたネタを一つ思い出したので、その事をゴラオンに伝えておく。
『獣使い』もサモナー系、『精霊獣使い』にジョブチェンジしたり『聖獣使い』『魔獣使い』になったりすれば、範囲攻撃は確保できた。もともとサモナー系はパーティに足りない部分を担当することが多いジョブだけに、その選択肢はかなり多い。しっかり有効活用するのが大事だ。
別枠の選択肢となると単体相手に有利になる『獣憑き』といった戦士系ジョブと相性がいいのもあるんだけど、そこはもうパーティと相談して決めた方がいいんじゃないかな。ゴラオンがどんな冒険者を目指すのかは俺の考える事じゃないし。
俺がそのあたりの情報を教えると、ゴラオンは感心したように声を漏らした。
「そういった情報って、あんまり出回ってないんだよな。どこかで調べられればいいんだけど」
「お? そういった情報って、衛兵の方でも管理してるんじゃないのか? 大事な事だし、普通に蓄積していくもんだとばかり思っていたけど」
「そうか? 衛兵の方ではそんなことやってないぞ。結局、何のジョブになるかは個人の才能だろ?」
「いやいやいやいあ。ジョブなんてスキルの取り方次第だし。計画を立てて管理するもんだぞ」
「え?」
「「え?」、じゃない!」
驚いた事に、ジョブとジョブチェンジに関する資料は全然整備されていないようである。
衛兵や兵士の高レベル者はレベル7オーバーで、レベル10も少ないけどいるにはいるというのに、なんでそんな事になっているのか。
これは後日聞いた話だが、スキルやジョブに関する資料をまとめようにも、強者の情報は隠匿される傾向にあり、記録に残せないというのが理由だった。過去の誰かの情報だろうが、どのタイミングで情報を残そうにも、今居る誰かの情報まで暴いてしまう危険性があり。そのリスク回避のために何も残っていないのが今のジョブ情報事情であった。
なので、この手の情報は旧ギルドの上層部が口伝で残している分しか残っていない。口伝なので、教えてもらえなければ調べる事も出来ないのである。
この時はなんで情報が紙媒体で蓄積されていなかったのか知らない俺は、何の気負いも無く行動に出る。
「よし、ギルドに資料室を作ろう。
そして、そこでジョブ関連の情報をまとめて見られるようにしよう」
資料室は、開設から数日間、順番待ちの行列ができたという。




