冒険者ギルド
「新人受付はこちらですー!」
「あ、クラン化希望ギルドの代表者の説明会はこちらですー! そっちじゃないですよー!」
領主様から仕事を任されるというのは、俺が考える以上に大きな事だったらしい。仕事が決まってからすぐに周囲の反応があった。
まず、新人や他のギルドが集まるようになった。
これまでは大手が所属したといってもやっていることが今まで通りだからと気にもされていなかった。ついでに「『北極星』ってなに?」という知名度の低さが浮き彫りになった。
それが領主の依頼を受けてみたら「今までとは違う」「こんな奴らがいたのか」と思われだしたのだ。この件で『北極星』の名前を聞いた奴も多い。
やっぱり、名前や体制が変わったと主張しようがやる事が変わらなければ意味が無いという事である。反省。
同時に、他のギルドもクランとして『北極星』の下に付くようになった。
事実上の傘下入りであれば彼らもこのような決断をしなかった。しかし、実際は一部の業務管理をしてもらえるだけでなく、上手く存在を示せればジョブ解放という大きなメリットが与えられることになる。
これは仕事、素材の売却先を求める中小ギルドにとっては大きなメリットばかりだ。俺と同じく、独自性を保ちたいがメリットは欲しいという連中にうってつけだったのだろう。
今まで他のギルドが来なかったのは、知名度の低さ、広報の弱さ。ついでに信頼の無さだろう。話を聞いていても公開されている情報が少なすぎてどこも判断できなかったらしい。
大手クランの所属ギルドだろうが、得体のしれない奴のところに人は来ないのである。
新しい話、それに付随する情報、そこから俺たちの事を調べようという熱意が生まれた。
それらが噛み合った結果が今の状態だ。
『北極星』はグランフィストの統一ギルドとなりつつある。
ジョブ解放についてはギルドへの貢献度順と言う事で話が付いており、自動的にジョブ解放のメリットを与えるという事は無い。
その事に不満がある連中もかなりいたけど、大手クランの前で実力行使などできるはずも無く、そいつらを無理矢理納得させている。さらに自信のある新規のクランも余計な事をするなと掣肘を加えるので、動きようがない。
ここまで来ると問題は冒険者ギルドの権益が非常に大きく領主がいつものように口を挟んでくる事だろうが、今のところはそういった気配が無い。
日本人がギルドを作った時は小さな事件を大きく見せてまで潰しにかかったというのに、だ。
先が見えない不安はあるが、それでも何とかやっていくしかない。
俺は領主側と揉める気はないし、相手もそれを分かっているので、俺がいるうちは手を出さないだけかもしれないな。
もしくは仕込みの最中なのか。
一番いいのはこちらをそのまま認めてくれることだろうけど、さすがにそれは無いと思う。普通に考えて、領主の立場を脅かしかねない暴力組織が都市内部にあるのは許容範囲外だろうから。
どこかで領主のひも付きになり、互いに協力し合うような関係を作っていきたいものだ。
そう考えると、権力者に縛られたくないと自由に生きるチート主人公が羨ましい。
あれはチート能力があるからこそできる強者の特権なのだろうから。
俺はあくまで現地住人よりもちょっと可能性を多く持っているだけの一般人でしかない。チート主人公ではない。
妥協できるところは妥協して、自分の中の譲れない物だけ守るようにしていこう。