表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
北極星の竜召喚士  作者: 猫の人
冒険者ギルド
61/320

右手で握手、左手でナイフ

 残念ながら、俺のところのメンバー貸出は出来ない。

 具体的に貸し出せそうなのが俺、桜花、ゴラオンの3人だけだからである。残念ながら、全員がまだ総合6レベルの雑魚なのであった。


 俺ももう少しで3レベルになるが、それで戦力としてはそこそこ程度。強くなったといっても『破魔の剣』や『夜明けの光』には遠く及ばない。

 なので、そういった要請に応える事は出来ないとはっきり言い切った。



 しかしだ。

 だからと言ってこの苦境に何もしないとまでは言わない。


「こちらからも提案です。我々冒険者ギルド『北極星』に仕事の依頼をしませんか?

 街の巡回を始め、衛兵や兵士の皆様が普段やっている仕事の一部を下請けとして引き受ける用意があります」


 最初、俺にはっきり断られてジャニスさんはどうしようかといった顔を見せた。日本人勢力に切り捨てられ、俺からも断られては立場が無いのでそれもしょうがない。

 1割いなくなった兵士、その埋め合わせに11%ほど増えた兵士の仕事。それを思えば何かしらの補充は絶対に必要なのである。


 だから俺からの提案は渡りに船といったところだ。

 それなら何とか体裁は保てると、ジャニスさんはホッとした表情を見せた。たぶん、ここまでがジャニスさんの演技だと思うけど。こちらが申し出なければ向こうから譲歩案として提案されただろうね。

 そもそも俺のところもジョブ解放を始めたばかりなのはジャニスさんだって知っているはずなのだから、それぐらいの展開を予想しているだろう。



 たぶん、領主やジャニスさんはここでこういった場を設け、「日本人に手を差し伸べた」「日本人と協力しあおうと提案した」事実を作る事で町の火消を計りたいのだと思う。仕事は無報酬じゃないからね、仕事を斡旋して食糧の提供をする流れを作ろうとしたけど相手が断った、そう言えるようにしたいのだ。

 そして俺とのこういったやり取りを見せる事で相手に現状を伝え、選択肢を狭めているのだと思う。このまま何もしなければ状況は悪化するだけだぞと脅しているのだ。


 全部俺の推測だが、ちょっとぐらいは当たっているんじゃないかな?





 今のやり取りの途中で日本人のリーダー、相川氏は帰ってしまった。

 かなり無礼な振る舞いで、こちらの法律に照らし合わせて考えれば無礼討ちされても問題ないほどの行動である。ジャニスさんは領主本人ではなく代行者ではあるが、代行者であろうと舐めた態度をとらせるわけにはいかないのである。遠くで「何をする! 離せ!!」と叫ぶ彼の声が聞こえたが、自業自得なので諦めておく。

 この場で切り捨てられなかったので、むち打ちぐらいで赦してもらえるだろう。たぶん。



 そんな相川氏の事など無かったように、俺はこれから出されるだろう仕事についての話をされた。


 軍のお仕事のうち、俺たちに割り振っても問題なさそうなのは都市近辺の巡回任務であった。

 簡単に行ってしまえば、ダンジョンではなく外で盗賊やモンスターと戦ってほしいというものだ。俺たちでは都市内部、街の管理を任せられないといった事情もある。

 


 この話をしていて、『北極星』がラノベの冒険者ギルドに近くなってきたような気がする。

 薬草採取はそもそもほとんどの薬草が栽培されていることを考えるとありえないが、ダンジョン外でモンスター対峙とか、まんまラノベの冒険者のお仕事である。


「今は構いませんが、いずれ軍の方のお仕事としてこなせるようになってくださいね?」

「ええ、もちろんです。……そうしないと、予算が厳しいので」


 巡回任務は定期的に行うものなので、出費は一定である。だから外部を頼ると兵士を使うより報酬が増加してしまい、領主の財布にダメージが入ってしまう。

 ジャニスさんはそんな内情を少しだけ暴露すると、報酬の減額に応じてもらえないかと言外に滲ませた。

 だけどこの場にいる以上、俺も経営者なのである。


「あはは。どこも(・・・)予算不足には悩まされますよね」

「ええ、あればあるだけ使ってしまう事になるのはどこも同じでしょう」


 こちらも経済的に厳しいからと言葉の裏で断り、「苦労は分かち合うものでは? 少しぐらい負担を強いることになりますが、我慢してほしいです」という意味の言葉を返される。

 互いに笑顔だが、右手で握手しながら左手でナイフを持つようなやり取りを強いられた。


 狸と狐の化かし合い。

 貴族って、本当に面倒だ。代理の人とやり合うだけでもこんなんなんだから。



 そう考えると、ギルマスをやるといってもお飾りでいいって言っていた、元ギルマスで今はクランリーダーをやっているジョンさんバランさんに恨み言を言いたくなった。

 俺、こういうのは嫌いなんだけどなー。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ