表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
北極星の竜召喚士  作者: 猫の人
冒険者ギルド
60/320

領主の勧誘

 盗賊団の件に関して、俺は自分には関係の無い話だと思っていた。

 同じ日本人が何かされたからといって怒りを感じる事は無く、義侠心を発揮する事も無い。身内が巻き込まれたのであればそういった感情も湧くのだろうけど、他人が奴隷にされようと殺されようと、テレビの向こうと同じく「異世界の出来事」でしかない。


 そんな事に思考を費やす時間があれば、ギルドの収益向上など、もっと考えるべきことが俺にはあるのだ。



 だけど何故か俺は領主から呼び出しを喰らい、領主お付の文官であるジャニスさんと顔を合わせることになった。


「このような形でお呼び出しして申し訳ありません」

「いえ、領主様からのお呼び出しとあればすぐに馳せ参じますよ」


 恐縮するジャニスさんに、俺は微笑んでみせる。

 内心ではそれなりにムカついているというか、巻き込むなよとうんざりしてはいるが、それをこの場であらわにしても意味は無い。と言うか、無駄な抗議(クレーム)と形だけの謝罪(定型文)で無駄に時間を使うだけである。話が早く終わることを期待し、丁寧に対応するのがベストだ。


 ジャニスさんはそんな俺の対応に安堵の表情を見せ(・・)、何も言わないもう一人に視線を一瞬だけ動かしてから話を始めた。


「御二方とも御存知のように、先日の盗賊団討伐の際に――」





 領主軍は先日の盗賊団討伐の件で大きく戦力を削られた。

 全体が5000人に対し500人も減ったとあれば、それは致命的とまでは言わないが、組織崩壊寸前の大損害なのである。俺が協力して増やした『荷運び』ジョブもちは全員が生き残ったが、それでも数年抱えて鍛えた精鋭が削られたのは領主にとっては悪夢に等しい出来事だろう。



 問題視されている事は盗賊の「質」である。

 敵だった盗賊団の規模は教えてもらえないが、俺の推測で最大200人ぐらいと考えると、防衛側有利の法則を適用しても相手の方が優秀だったと言わざるを得ない。

 それを成しとげたジョブ解放の恩恵は、脅威は、領主にとって絶対に無視しえないものだ。

 細かく言うと、精鋭兵たちもジョブ解放してそこそこ鍛える期間があったので、短時間で精鋭兵よりも質を向上させたという事実が問題なのだ。


 俺たち(・・)はそれができるので、無闇矢鱈とジョブ解放をしてほしくないという確認が一つ。



 あとは失った兵力の補充の話だ。


「御二方のところにはジョブ解放をして十分に鍛えられた方もいると思います。ですので、そういった方を領主軍に引き入れる手伝いをして欲しいのです」


 今回の盗賊団は壊滅させたが、まだどこかに似た様な集団がいるとも限らない。

 そうなると再び大きな被害が出る可能性が非常に高く、領主軍の対応能力を上回る事態すら懸念される。


 早急に兵力を増やすには外部から戦える人材を吸収するのが一番効率が良く、手っ取り早い。

 信用や信頼の問題はあるし既存の連中との軋轢が生まれるけど、そこは上が上手く立ち回ればそこそこ回避できる問題でしかない。 まぁ、日本ではむしろ対立を適度に煽って競争させられたからな。

 これはそこまで頭の悪い話でもない。


 ……一点。誘われる側の気持ちを考慮していないことを除けば。



「ふざけるな、としか言えないな。俺は帰らせてもらう」


 俺と一緒にいたもう一人、その男が無表情にそれだけ言い放った。ここに俺が来てから初めての発言である。

 その男、日本人の取りまとめをしている『相川(あいかわ) 慶治(けいじ)』はもう話は終わったとばかりに部屋を出て行こうとした。


 ジャニスさんは縋るように俺へと視線を向けるが、今回は俺も役立たずである。


「こちらも無い袖は振れません。この話、お断りさせていただきます」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ