グランフィスト VS 日本人
盗賊団の壊滅には成功したらしい。
しかし、被害が予想をはるかに超えて大きかったようだ。
「はー。1000人突っ込んで約500人も死亡とか。普通なら全滅で負け戦じゃないか」
「? 半分生き残っているのなら半壊では?」
「普通の戦争って、全体の2割やられたらその時点で負けなんだよ。ま、兵士さんも練度の高い精鋭兵だったって事だろうけどさ。よくもまぁ、半数になるまで戦線を維持できたもんだ」
俺は周囲から流れてくる噂話のまとめを聞くと、桜花と二人でそんな事を話していた。
半数が死亡とかそれでも相手をすり潰しただとか、俺の常識が通じない世界にビックリだ。
だが今回の盗賊騒動、問題の本質はそこではない。
「それにしても、日本人が奴隷化されていたなんてなぁ」
「ええ……。ですけど、時期を考えればそこまで難しい事でもないんですよね」
「あー。今でも簡単だと思うよ。日本人全員が戦えるわけじゃないから、レベル3でそのままの人も大勢いると思う」
盗賊団が手ごわかった理由、それはジョブ解放が原因だった。
そしてその為に、日本人が奴隷にされていたことが大問題だった。
盗賊団には数人の女性が捕まっており、そのうちの2人が日本人だった。
彼女らは盗賊に協力を強要されており、人格が崩壊するまで「壊されて」いたという。盗賊に言われるままにジョブ解放を行い、3ヶ月間ぐらい、ずっと奴隷生活をしていたという。
俺たちがこの世界に来てからおおよそ4ヶ月。そのほとんどを奴隷であるよう強いられてきたわけだ。
ここまでなら、実はそこまで大事ではない。
酷い言い方だが、この世界を舐めていた人間が厳しさを知った、それで済むはずだったんだ。
ただしグランフィストは一部の日本人の問題をクローズアップして排斥行動に出ていたために、日本人サイドから逆襲されているという。
酷い事をした日本人がいた。だから日本人は酷い奴だ。
この理屈が通るなら、この世界の奴が酷い事をした、だからこの世界の奴は酷い奴だ、と言う理屈が通らないのはおかしい。
もちろん現実はそんなんじゃないが、これまで言われっぱなしだった日本人側がこの酷い話を理由に、グランフィスト側と揉めだしたのだ。
後者の理屈がおかしいのが分かるなら、前者の理屈が通らないのも分かるだろ、と。
別にグランフィストの連中を責めているわけではない。奴隷にされた連中、それを強いた悪党は彼らの手で裁かれたのだから。
だけど、その前に一部の問題を全体の責任とする風潮が気に食わないと言う。
そこから話を繋げて、だからちゃんと金は払うし俺たちにも物を売れと主張している。日本人排斥をしていた正当性が大きく揺らいでいる。法ではなく民衆の感情を煽って作った自主的な日本人排斥が上手くいかなくなるのだ。
これは、領主にとって非常にまずい展開だ。
このままでは食糧不足を基点とする悪い感情が領主に向かってしまうのだ。
元々食糧不足が根幹にあるため、領民を優先すればグランフィスト全体が薄く負担を強いられるようになる。これはどんな手段を用いても解決する事は無い。ダンジョンがあっても無限に食糧が採れるわけではないのだから。
鉄とかのような金属や魔法関係の素材とか、食糧以外はわりと簡単に手に入るけど、それは今回の問題を解決できるものではない。
日本人側も食糧供給を必要としているだろうから、簡単には引いてくれない。
この問題、一体どうなるのか?
上層突破の翌日まで、この話を俺は他人事のように考えていた。
かつてこの問題で、自分が利用されていた事を知っていたにも拘らず。




