M&A③
盗賊の討伐に、領主が動いたらしい。
事件発生から5日目。
領主が兵士1000人を動かし、盗賊討伐に向かったようだ。
5日というのは敵の拠点その他を調べ上げる時間と兵が動くための物資を用意する時間だ。当たり前のように多くの『荷運び』ジョブ持ちが同行するので、行軍はきっとスムーズになるだろう。そして神速の行軍により盗賊は一気に殲滅されるだろう。
今回の件で意外だったのが、日本人側に何もしないという点だ。
街中で日本人犯人説が流布していたので、てっきり俺は領主が彼らに何か仕掛けるとばかり思っていたが、そんな事はなかったらしい。
どうやら噂話は領主の仕事ではなかったようだ。
兵士が1000人って事は、敵の総数は100~200人って所だろう。敵の倍以上で当たるのは基本だし、殲滅戦なら相応の人数差が欲しいからね。
動かせる兵士の平均レベルは7ぐらい。今ならジョブ解放で9レベル以上になっていると思うけど、それがどこまで有利に働くかは未知数だ。
領主だって勝てると見込んで兵士を動かしたんだろうし、多少被害が出るだろうけど、普通に考えたら負けるって事はないだろうね。
この出撃の話を聞いたイーリスが複雑そうな顔をしていたけど、たかが盗賊相手であれば兵士の方が強いのは自明の理だし、もう出番はないだろう。親父さんもきっと安心しているに違いない。
それでも結果を聞くまではと、イーリスは剣や槍を振り回していた。
その間も俺達はダンジョンに向かい、僅かなお金を稼ぎつつ中層を目指すが、何故かダンジョンの中ボスまでたどり着けない。
探索時間を2泊に増やしてみるが、不思議とボス部屋が見つからない。
そうやって減っていく貯金に俺も焦りつつある中、『北極星』は再び来客を迎える事になった。
「お久しぶりです」
「また時間を取らせてすまないね」
大手ギルマスの来訪である。
今回はバランさんがおらず、『破邪の剣』のジョンさん1人だけだった。どちらも筋肉系なので1人であろうが圧力の強さは変わらないけど。
俺達は挨拶のあと、前回と違い盗賊関連の雑談をしてからギルド関連の話に移る。
「今回は、前回と違う話を持ってきたよ。ギルドの統合っていう点は変わらないけどね」
ジョンさんは俺に微笑みかけると、一枚の紙を取りだした。
その紙を俺に手渡し、読むように言う。
「私達が提案する内容は『冒険者ギルド』の設立と、現行ギルドの『クラン化』だよ」
そこにはMMO的な今のギルドではなく、コンシューマーゲーム的な冒険者ギルドについて書かれていた。




