M&A
結局、今回の探索では赤字になってしまった。
使った松明や油などはいいとして、人件費が意外と負担になっている。スライムの核やゴブリンの装備では賄いきれないマイナスだ。
ゴラオンらパーティメンバーは生活の面倒を見ておけば、給金を払う必要が無い。赤字の責任は彼らも背負うべきものだからだ。
ただ、それでも食費や装備の補修や補充を考える必要があり、全く出費が無いわけではない。
俺は今回の清算を思うと少し憂鬱な気分になった。
ギルドハウスに帰る足も重くなろうというものだ。
「ギルドマスター! 来客です!」
ギルドハウスの見える所まで歩いて行くと、門の前でキョロキョロしているキュリィさんを見つけた。
彼女は俺に気が付くと、声を上げ駆け寄ってくる。
「お客さん?」
「はい! 有力冒険者ギルドの『破魔の剣』、『夜明けの光』のギルドマスターです!」
俺はその名前に思わず吹き出しそうになった。
今聞いた名前は俺でも聞き覚えのあるほど現地の有力ギルドだ。規模はどちらも300人ぐらいって話だけど、下層を中心に活動しているって聞いたことがある。
「この街の最大手じゃないか!」
「はい、ですから急いで来てください!」
俺はキュリィさんに手を引かれ、ギルドハウスの中に走っていった。
俺の帰ってくる時間はだいたい予定通りだったので、待ってもらっていたわけだ。
相手の方が格上という、こんな状況で客を立たせたまま待たせるなんてありえないので、応接室で座って待ってもらっていた。
まともなお茶菓子とかをまだ用意してなかった事が悔やまれる。
応接室にいたのは、いかにも凄腕といった雰囲気の筋肉ダルマなおっさん2人。……美女がギルマスをしているギルドって、あったっけ? 無かったよなぁ。
相手が美女じゃないのは残念だが、それは重要じゃない。待たせしまったことを詫びるため頭を下げようとしたが。
「事前連絡、予約も無しに来たのだから待つのは当然さ」
「ああ、そちらに非は無いな」
むしろそんな態度でいた所為で相手に気を使われてしまった。
こっちが出来たばかりの弱小ギルドであってもきっちり筋を通し礼儀を弁える事ができる、余裕ある大人の対応である。
自分のギルドハウスだけど相手に勧められ、向かい合うように腰を下ろす。
「御二方の御高名はかねてから承っております。私がギルド『北極星』のギルドマスター、レッド=スミスです」
「ご丁寧にどうも。私がギルド『破魔の剣』のギルドマスターをしています、ジョン=スミスです」
「俺は『夜明けの光』のバランだ」
ジョン=スミスさん。イギリスなら偽名みたいな名前なんだよな。ついでに俺とはスミス繋がり。血縁ではないけど。
もう一人のバランさん。家名が無いのは平民なら当たり前なんだっけ? ゴラオンとかもそうだし。
そうなるとジョンさんは貴族ってことか? 俺がスミスって名乗るのは不味いか?
挨拶一つでちょっと考えたくなることが出てきたが、それは一旦横に置く。
「それで、本日はどのような用件でしょうか?」
無駄思考は本題を終えてから。
あちらは忙しい身だろうし、つまらない前置きなどするべきじゃないだろうから雑談の一つもなしに切り出してみた。
「俺達は『北極星』との合併を求めている」
「規模は横に置いて、そちらに主導権を渡してもいいと考えているよ。どうだろう、前向きに――」
「お断りします」
切り出したついでに要求まで切り捨てちゃったよ。




