桜花の個室
ギルドハウス。
それはギルドの象徴にして、メンバーたちの帰るべき場所。
帰るべき場所と言うのは言い過ぎにしても、基本となる活動拠点であることには間違いない。
俺をはじめ、主力級メンバーはそこで寝泊まりするのが基本なんだし。
久しぶりにやって来たギルドハウスは奇麗になっていた。
建物全体が掃除をしっかりされているだけでなく、リフォームしたかのようにピカピカになっていた。
敷地内も目に見える範囲だけでも見渡せば、雑草が残らず抜き取られており、少なくない労力がかけられたのがよく分かる。
「サービス、って話なんだけどなー」
「素直に喜べばいいのではないでしょうか?」
「いや、それだけ恩を着せられたって事でもあるからね」
桜花と二人で中を見て回れば、外装だけのサービスでないことが分かった。家具の類も設置されており、すぐにでもギルドハウスが使えるように配慮されている。畑に薬草が植えてあるとか、ここまでやるかという気持ちが湧いてくるほどだ。
普通なら引っ越し可能と生活可能は全く別なんだけどね。領主が本気で俺たちをもてなそうというつもりなのだろう。
おかげで素直に喜べない俺がいる。
個室もベッドなどが運び込まれているので今日からでも寝泊り可能である。
が、残念ながら食堂に食材が補充されていないので、本当に今日からという訳にはいかないけど。
「桜花も個室を持ってもいいんじゃかな」
「私は、マスターと一緒の部屋でも構いませんが? 今までずっと一緒でしたので、今更別の部屋と言う気にもなりません」
ふと、新しい拠点に部屋がたくさんあったので、桜花に個室を持つよう提案してみた。
しかし、それを聞いた桜花の表情が硬くなった。かなり嫌がっているようである。言葉はやんわりとした断りであるが、表情を加味すれば「絶対にいや」と考えて良さそうだ。
今までは宿代の節約など仕方がない事情があって同室でいたけど、桜花の方はそれ以外にも俺と一緒にいたい理由がありそうだ。
無理に提案する事でもないが、本当にそれでいいのかと考えてしまう。
俺自身が個室を欲しいと、一人の時間が欲しいというのもあるけど、桜花が俺にべったりなのは問題じゃないかなと思う。
まぁ、生まれて1年どころか2ヶ月もしないうちに、親である前マスターと同期の仲間全員を失ったんだ。精神的に不安定でもしょうがないか。
この件に関してはゆっくり時間をかけ、少しずつ解きほぐしていくのが王道かな? 実子を持った事が無いのでなんとなくだけど。
自信は無いけど、桜花にバレないよう誰か大人にこっそり相談することもできないので、様子見をするしかないかな。
……それとも今度、手紙でも書いて誰かに意見を求めるか?
その場合の候補は誰がいいかな。
アゾールさんやガナードさんに聞いてみるか、女の子同士って事でスピカ嬢やミューズ嬢に話を振るか。
桜花を切り捨てる、放置するような選択肢は今のところ無いし。
仲間なんだし、問題があれば一緒に解決していけるといいよね。