ちょっとした冒険(後)
俺とゴラオン、そしてスピカ嬢。
この3人のうち、最も防御力が無いのはゴラオンだ。
この場合の防御力は防御スキルの充実度で、俺やスピカ嬢の場合は『騎士』の為に防御力ボーナスを乗せられるスキルを所有している。
しかしゴラオンは『戦士』で『獣使い』のため、ステータス的には俺達と互角でも、防御に関しては地力が違う。
防御よりも攻撃のアタッカーであったことも災いし、ダメージの蓄積は3人の中で最も大きかった。
「く、そがっ……」
俺はすぐに≪召喚術≫でマリーを呼び、MP切れのミューズ嬢が倒れたゴラオンを後方に下げた。
数の上では先ほどまでと同じ、しばらくは持つ。
だが召喚されたばかりのマリーでは崩れた戦線の復旧がすぐに出来るはずもなく、ゴブリンが2体ほど後方に抜けた。
『戦士』ジョブ持ちのミューズ嬢が杖を振り回して追い払おうとするが、慣れない物理攻撃には思ったほど力が乗らない。俺達は戦線の維持で精一杯なので、助けに行くこともできない。
桜花が大治癒薬でゴラオンのダメージを回復させるが、彼がすぐに戦線復帰できる訳では無い。ゲームと違い、一回倒れるほどにダメージが蓄積するとHPが回復してもすぐには動けないのだ。
「ここまでだな。≪アローレイン≫」
マリーは召喚コストのMPが支払えなくなったら送還されてしまう。そうなれば終わりだ。
俺が軽い絶望に襲われていると、ようやくガナードさんが動いた。
ガナードさんは弓に矢を番えると、覚えてからもあまり使っていないスキルを使う。
『弓兵』のアクティブ、≪アローレイン≫だ。
≪アローレイン≫は名前の通り、矢を雨の如く射かける技だ。弓兵のスキルの中でも、唯一ではないが数少ない範囲攻撃である。
レベルの高い人が使っているため、ゴブリンがあっという間に倒されていく。……曲射でどうやってダメージを叩き出しているのか気になったが、そこは突っ込んではいけないのだろう。
「せっかく回復させたのに出番がないね」
「ああ、大治癒薬が無駄撃ちになったな」
多少のレベル差があろうと、そこそこのレベルの奴らを集め数で押せばなんとかなるけど。ガナードさんとゴブリンではその「多少のレベル差」が大きすぎた。
基礎能力の差、遠距離攻撃、狭い通路、そして折り重なった死体で悪くなった足場。それらの要素があり、ゴブリンにとってガナードさんは「倒せない敵」と認識される。俺達と違って。
ガナードさんが攻撃に加わって数分。いや、数十秒か?
たったそれだけでゴブリンが逃げ出した。勝てないと悟ったのだろう、俺達に背を見せ無様に潰走する。
「はぁ。何本の矢が回収できるかね?」
それだけのことをやった男は、少なくなった手持ちの矢に嘆息していたのだが。




