ギルド開設①
「どうせ入るアテが無いなら、自分たちでギルドを作ればいいだろ」
俺たちはいい考えが思い浮かばなかったので、衛兵さんたちにメンバー募集の件を相談してみる事にした。
「お前らと同じことを考えている奴らがいるかもしれない。
お前らと同じように、今あるギルドに入る事しか考えていない奴らを受け入れる様な、新人向けのギルドがあってもいいんじゃないか?」
衛兵の隊長さん、アゾールさんはそう言って俺たちの問題に解決策をくれた。
しかし、だ。
「ギルド開設の初期資金はどうなります? あれ、10000Gは必要だったと思うんですけど」
「それぐらい、出せるだろ?」
「その後の事を考えなければ、出せますけどね……」
ギルド開設にはお金が必要だ。しかも、普通に家を買うよりも多くのお金がいる上に税金だってばかにならない。ギルドが乱立しないのもそれが理由だ。
赤貧を抜け出すために投資をするなど、俺には考えられない選択だった。
「どこかで何かしなくちゃいけないなら、早めに動いた方がいいぞ? 問題は早め早めに解決しないと、どうしようもなくなってから押しつぶされる事になりかねん。どんなことでも、問題がはっきりしているなら動けるうちに動くのが基本だ」
しかしアゾールさんはそんな俺を諭すように話を続ける。
確かに、投資するだけで借金をするわけでもない。
ギルドホームもオマケで付いてくる。
かなり高い家を買うと思えば、悪くない出費かも知れない。
でもなぁ。
やっぱり10000Gは躊躇する金額なんだよ。
日本にいた時なら会社に電車通勤している時に、通勤用の車を買うか悩むようなものか。しかも高級車。
「どうしても決断できないなら、先にメンバーだけ募集すればいいだろ。メンバーが集まるならギルド開設、集まらなかったら見送りだな。集めた奴らに資金提供を求めてもいいし、やりようはいくらでもあるさ。
ちょうど宿舎にいるんだから、ギルド開設はここを出て行く時に合せるというのもいいな。俺たちの名前を使えば、早々変な奴らも来ないだろう」
「いや、でも。メンバー募集って言っても、どうやってその話を新人冒険者に広めるんです?」
仲間が集まらない理由はいくつもあるが、現代日本のようにネット環境が無いというのが特に大きな理由として挙げられる。
ネットが使えるならスレを建ててそこで募集することができるし、どこかで募集があればすぐに気が付くだろう。そういった情報収集のための環境が無いために俺たちはソロもどきをしているのだ。
「ま、俺たちも手を貸すさ。ちょっとした伝手なら持ってるからな」
アゾールさんや他の衛兵さんが、いくつ家の酒場や巡回中に立ち寄る宿屋でそういった新人に話をばらまいてくれるという。
いや、まて。
「それなら、普通に紹介してくれてもいいんじゃないですか?」
そういったコネがあるなら、わざわざギルドを作る必要なんて無いんじゃないか?
しかしそんな俺の意見をアゾールさんは切り捨てる。
「無茶を言うなよ。相手だって仲間にする奴は慎重に選ぶぞ。俺たちはいいが他の奴にしてみれば、お前がどんな奴かも分からず「仲間になってくれ」なんて言われても、普通は同意しない。
ギルドっていうのは、最低限の信頼を作る保障なんだよ」
そうだった。
俺も似た様な事を考えてギルドに入ろうとしていたのを忘れていた。
その後、もう少し話を聞いて、俺はギルド開設の申請をすることにした。
ギルドハウスが先にあった方が信用を得やすいだろうし、金を出してほしいなんて言ったら詐欺と思われるかもしれないから。
財布の中身がずいぶん軽くなったけど、必要経費と言って自分を慰める。
そういやぁ、『七鍵世界TRPG』は赤貧生活を楽しむゲームっていう触れ込みだったよな。
リアル赤貧は死ぬほど切ないだけだけど、な。




