願いはそこそこに
「ダンジョンクリア?」
「そうそう。別に君たちのパーティがボスを倒す必要はないんだよ。相川青年は君たちの邪魔をしたようで、手伝いをしただけという訳だね」
俺は今、真っ白な世界にいる。
視界の存在しない世界とでも言えばいいのか、自分の体すら見る事が出来ない。それなのに声だけはしっかりと聞こえるのだ。
「さあ、ダンジョン攻略を成し遂げた冒険者よ、汝の望みを叶えよう」
数年ぶりに聞く神様とやらの声は、はっきり言えば威厳も何も無い、そこいらにいる男の声にしか聞こえない。
たぶんも何も、相川やバランの声の方がずっと力強く威厳がある。全然神様らしさを感じない。
いや、そんな事はどうでもいいか。今はクリア報酬の選択の方が大事である。
俺は逸る胸を気分だけでも押さえ、願いを口にした。
「全ジョブの獲得を可能にして欲しい。当然経験値稼ぎが出来てレベル上げもできるように」
「いやー。流石にそれはダメ。無理じゃないけど、ダメ。
レベル、1000を超えちゃうでしょ。それが出来たら神様よりすごい化け物が誕生しちゃうよ。せめてジョブ一つ追加だね。
先に提案されないように言っておくけど、スキルだけが欲しいというならレベル5分までなら認めるけど?」
一番の願いを叶えようとしたが、どこか苦笑するような声でダメ出しされた。
さすがに無理を言いすぎたらしい。
そしてこの場で言われる制限が細かい。できる事なら何でも叶えてくれると言われているのに、こんなに制限が強くていいのだろうか?
「なら、任意のジョブ構成に好きに替える能力を。対象は任意で、レベルは据え置き。変更までの時間がかかってもいい。クールタイムは1年未満なら我慢する。それならどうだ?」
「それもアウト」
「な!? これぐらいは良いだろ!!」
「いや、どう考えても駄目でしょ。君限定であればいいんだけど、そうするかい?」
「……別の案にするよ」
第二案も却下された。
こっちはそこそこ現実的かつ使い勝手のいいものを選んだつもりだったので、ダメ出しされると本気で凹む。
ちゃんとデメリットも考えたのに。
ジョブ関連は一旦諦めよう。
「命のストック。殺されてもその場で生き返れるような能力。時間経過、一月に一つぐらい回復して、ストックの上限は無しで」
「いやいや、それなら上限は……三つまでにしてもらうよ。回復には一年ほどかかるようにした上でね。どうする?」
「死んだ後の復活の魔法もあるんだし、そこまで厳しい制限は要るのか?」
「必要でしょ。いくらなんでも月に一回死亡を回避するなんて言うのは破格の能力だろう?」
「じゃあ、あらかじめ設定した場所に自動復活は? これなら通常の復活魔法の範囲のはず。コストは復活後のMPで賄えばいいだろ」
「ダメ。復活の難易度の高さは、死体の確保の難しさも含めて設定してあるんだよ。死体を確保できる状態なら、超高度な医療を施されて復活できる。だからこそ存在を許しているんだ。
相川青年だってそのリスクを受け入れたからこそ、復活できるんだよ」
くそう、第三案、第四案も駄目かよ。
復活系統のチートがあれば俺の安心安全な冒険者生活は保障されるっていうのに。
「接触した他人の経験値を奪う能力。奪った分に限定して他人に譲渡できるように。制限は奪った対象の経験値枠に依存する形で、例えばレベル3の奴から経験値を奪ったらその奪った経験値でレベル4にはならないとか」
「うーん。分配を禁止、一度に奪える量を元のレベルマイナス3までなら、それでもいいかなぁ?」
「二度目を奪えるようになるまでの制限は?」
「対象がもう一度、一つでもレベルを上げたら、だね」
「なら、止めておくよ」
これもアウト。微妙に使えない。せめてレベルマイナス1とか、半分ぐらいは下げたかった。
「あらゆるダメージを全て2割までカットするスキルは?」
「半減。それぐらいにして欲しいね。“あらゆる”って、毒なんかの体内ダメージも含むんだろう?
付け加えると、加齢による衰えも半減しちゃうから、この願いを叶えるなら寿命が倍加するよ。元のままなら寿命が五倍になるね」
「……寿命は据え置きで」
「外部からの攻撃によるダメージを。こう言っていいならさっきの八割カット・二割通しでもいいけどね」
「それ、事故での死亡は防げないだろ」
くっ、本当に願いが制限されるな。
いったいどういう願いを叶える気でいたんだ? なんとなく、聞いてみる。
「あれも駄目、これも駄目。それじゃあ叶えて欲しい願いなんて何も、どうにもならないじゃないか!」
「こっちも想定外だよ。地球、日本に帰りたいって言ってくれると思っていたよ。こっちで生きていくにしても大金とか不老不死とか才能に美貌。あとは英雄になれる力とか武具とか。あとは理想のハーレムが欲しいとかね、その程度かと思っていたのに。」
「いや、この世界の管理者権限とか神の地位とか。そういったものを要求するだろ、普通。というか、ハーレムなんて罰ゲームだろ」
「そうかい? 神への祈りで多い要求を並べてみたんだけど」
「叶うかもしれない願いと、叶ったらいいな程度の願いの差だよ」
この神様は何を言っているんだろうね? 想定が甘すぎる。人間の欲深さを舐めているな?
そして“理想の”ハーレムなんて高性能なダッチワイフと何が違うんだか。人間味があれば人間関係でハゲるし、人間味が無ければ人形館。理想の恋人って言われればまだ現実味があるけど、俺の嫁は既に決まっているからもうどうでもいい。子供時代というか学生時代なら楽しめたんだろうけどな。
不老不死もなぁ。俺の理想は畳の上で孫やひ孫に囲まれ大往生だし。死ぬまでが人生だと思うと、そこまで魅力的には見えない。それに、不老不死は普通に殺される。
「寿命以外で不死不滅ってのは?」
「ダメだよ」
「不老不死は良さそうなのに……」
「殺せなくなるのはアウトだと思っていいよ」
はぁ。俺の一番の願いがアウトかよ。なんとも詰まらない話だな。萎える。
最強無敵も駄目みたいだし、そこそこの強化で我慢しろって感じがありありと見える。ずいぶんチャチい報酬だなぁ。
「じゃぁ、こういうのはどうだ?」
「んー。ん? それでいいの?」
「ああ、それでいい」
色々と駄目出しされた俺は、事前に考えていた報酬のうち、ちょっと変わり種程度の物を選ぶことにした。
残念。
本当に残念。
クリア報酬でチート無双だと思っていた俺の期待を返してほしい。
まぁ、チートな能力は手に入ったけどな。