確定する狂気
なんで相川が、というのは今考えるべき事ではない。
相川をどうしようか、それを考えるのが正解だ。
「バラン、どうする?」
ポジション的に、俺はバランと近い位置に待機していた。
だから相川をどうするのか、パーティリーダーであるバランに聞くことにした。
「この場で殺す。それでいい」
「了解」
バランの決断は素早く、的確である。俺も短く返し、戦場へと足を進める。
この場で生け捕りにするリスクを俺たちが背負いきれるか、それを考えれば殺すのが唯一無二の正解である。
重ねて言えば、ボスを横取りされた怒りをぶつけたいというのもあった。
MMOに例えるなら、後少しまで追いつめたレイドボスを横殴りされ、討伐限定報酬を掻っ攫われたようなものだ。ブチ切れるのも当然である。
ここで殺してもまた生き返るんだろうが、だからと言って殺さないで放置する選択肢など無いのだ。
見逃すなどありえない。それに相川だって俺たちを害そうとしているのだから、この場で処分するのに何らかの躊躇いを抱く必要もない。
俺たちはこれから殺し合いをするわけだ。
「死ね!!」
「アホか、テメェ」
バランパーティの古株である剣士に相川が斬りかかった。
しかし、その剣士は危なげなく相川の攻撃をいなすと、近くにいた槍使いが相川の背後からその脇腹を抉った。
相川と前衛の仲間の戦いは、一方的であった。
6対1である。数はこちらが多い。
しかも実力差はほとんど無い。
実力に差があったとしても、複数で囲んでボコってしまうのであれば、多少の差など覆せる。
負ける要素は、まず無い。
そんなところに俺が近づく必要があるのかというと、必要はない。
ただ、仲間がより楽に戦えるようにするだけである。
「ここに来たのは偶然か、相川?」
「!? レッド! この、裏切り者が!!」
俺の役目はお喋りをして集中を削ぐ事だ。これ以上人数を増やすのも連携的に難しいので、直接戦う気は無い。それ以外の手段で干渉をする。
「裏切り者? 仲間だった事も無いのに?」
「同じ境遇だっただろうが!」
「いや、そもそも、俺は何もしていないぞ」
「領主の犬をやって、それが通るとでも思うのか!」
「実際、俺は何もやっていないからな。俺がお前らを排除しようとしたことは無いし、お前らが勝手に領主に喧嘩を売ってその結果として追い出されただけじゃないのか? 詳しい事も何も、俺は知らん」
「ふざけるなぁっ!!」
もしかすると何らかの切り札を隠しているかもしれない。
だから、正気を失った相川相手に精神攻撃を仕掛ける気で会話に応じる。
煽るのは苦手だが、ちょっとぐらいは頑張ってみようと思う。
「それより、なんでお前はここにいるんだ? もうダンジョンを攻略したんだろう? だったら日本に帰れよ」
「……!!」
なお、相川らがダンジョンで知ったことについては俺も話を聞いている。
日本人勢力が領主側に寝返ったというか、ヤマト村の幹部クラスが相川不在の間に仲間同士で喧嘩をして領主の部下になったという事があり、そこから俺までいろんな話が回ってきたのだ。
だから、カミサマとやらからこの世界がVRで俺たちもNPCの一種なのだという話は聞いている。
俺にしてみれば、どうでもいい話でしかないが。
それを知ったうえで相川に日本に行けと言うのは、逆鱗に触れる行為である。
少なくとも、ブッ殺すリストに名前を連ねる発言であることは重々承知している。もとから名前があるだろうから何も変わらないんだけど。
案の定、相川は言葉にならない何かを俺に向けて叫んでいる。なにを言っているかは分からないが、とにかく俺を殺したくて仕方がないという憤怒の顔であった。
「かみさんと子供をほったらかしにして、こんなところで遊んでるとか。こっちで新しい嫁でも見つけたのか?」
相川の顔が真っ赤になるが、俺に向けて何か言う前に剣士の剣がその首を刎ねた。
俺に意識を向けすぎて、周囲にいる他の連中の攻撃を捌ききれなくなったようである。うん、俺はいい仕事をしたようだ。
戦闘終了後、なぜか仲間が俺を見る目が微妙な物を見る様だったが、理由が分からず俺は首を傾げるのであった。
ちゃんと仕事をしたよな、俺?




