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北極星の竜召喚士  作者: 猫の人
ギルド/PK
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幕間:その後の2ヶ月

 これは後で聞いた話だ。

 俺が衛兵さんたちと行動を共にしていた間にあった大捕り物の話であり。

 そしてジャニスさんというか領主側が俺に説明しなかった、もう一つの目的の話でもある。



 俺のガードが固くなったことで、物理的な脅威は無くなった。

 同時に、周囲の地元冒険者たちも俺の事を気にかけてくれるようになった事で「日本人 VS グランフィスト」のような流れができていった。

 周囲の空気が「日本人の大多数は法を解さぬ野蛮人」と考えるようになり、全く関係の無い人まで巻き込んだ大騒動になっていったのである。


 酔っぱらいの殺人事件から墓泥棒の話、その後のリンチ未遂というコンボはグランフィストにおける日本人全体の評判を著しく悪くしていたのである。

 また、領主側から警戒されるほど短慮であるという推測(・・)も一部の言葉が事実の為、悪くなった評判という火に油を注ぐ結果となった。



 そして悪評が広がる燃料はそれだけではない。

 日本人が「大勢、突然」現れた事も悪評を呼ぶ原因となっている。


 日本人が来たことで、消費が一気に拡大した。


 それが理由で食糧を始めとした多くの物資が値上がり傾向にあり、多くの家庭の家計をひっ迫する。

 多くの物資が消費されたことで不足する物が発生し、普段なら手に入った物が手に入らないと嘆く声があちこちで上がる。

 過半数がダンジョンに潜る冒険者となった事で、ダンジョン由来の品が多く市場に流れ単価を落とし、冒険者の収入減に繋がった。

 商人たちも競争する同業者が今まで安定した環境に現れたため、大きく減収している。普通の商人なら守る流儀を守らない者が多いため、かなり迷惑を被っているようだ。



 グランフィストは豊かな土地柄ゆえに食糧不足になる事はなかったが、それでも限度というものはある。

 万を超える流民(・・)など受け入れたくないというのが、領主から一般人に至るまでの本音であった。





 逆に、日本人冒険者もグランフィスト側に不満を感じていた。

 冒険者ぐらいしか稼げる方法が無く、仕方なしに冒険者をやっている者がほとんどだからだ。


 例えば農民になって食糧生産に貢献しようとも、その結果が出るのは一ヶ月二ヶ月先の話でしかない。農地の購入費用などまで考えれば、現実的な話ではないのだ。

 例えば狩猟をしようにも、近くの森のキャパシティの問題がある。獣は狩り尽せばそこで終わりなので、生産量(・・・)はこちらの都合ではなく森の都合に任せる他ない。既に定員はいっぱいなのだ。

 ついでに、ダンジョン内では食料になるモンスターが出ないのも問題だった。



 無論、戦うのが嫌で、農家を始め他の職に手を出した者も皆無ではない。

 ただ、ほとんどいないだけである。



 自分で望んだ生活ではなく、生活レベルは日本のそれよりはるかに劣り、周囲からは悪しき様に言われる。

 日本人もグランフィストとその住人に対し静かに怒りを燃やすのも、不思議な流れではなかった。





 そんな中で領主から保護を受ける俺は、周囲からどのように見られるだろうか?



 グランフィスト側は領主の工作もあり、俺を被害者として見るようになっていた。

 真っ当な人格だったが為に異常者の日本人とは馴染めず、日本人の犯罪被害に遭った可哀想な子供。それが俺に対する評判だ。何割かは外見で得をしたようである。


 日本人側は最悪である。

 同じ日本人を見捨て、幼い容姿を使って異世界人に媚びを売るゲス。どうでもいいが、ずいぶん嫌われたものである。

 領主が工作をしているように、元『日本帰還互助会』や『生産活動推進部』といったギルドが積極的に俺の悪口を広めている事もあっていい話は聞かない。


 そんな日本人の行動を見てグランフィストの民衆は日本人を嫌うようになるという、負の連鎖が完成していた。



 付け加えておくが、全ての日本人が俺を悪く言っていた訳では無いし、情報操作に踊らされずちゃんと誠実で真っ当な行動を取っていもいたが、それを上回る勢いで日本人排斥が行われていたのである。

 半数以上の日本人がまともであっても、ごく一部、目立つ馬鹿のせいで状況が悪くなっていくのであった。





 たぶんだが、領主がやりたかったのは日本人の排斥だ。

 受ける恩恵より(こうむ)る被害が大きすぎると判断したのだろう。自分たちと日本人らとの対立を煽るために俺を利用したのだ。分かりやすい憎むべき対象(・・・・・・)がいれば、流れが加速するのだから。

 ダンジョンの攻略は神の意志が絡むために防げないが、自分たちと日本人を切り離し、追い詰める作戦だろう。どんな英雄でも食糧供給を断たれれば飢えるしかないのだから。それを民衆に自主的に(・・・・)やってもらおうという算段だったのだろう。


 街中には「日本人お断り」を掲げる店が増え、対立は深刻化して。

 日本人側も独自の食糧供給ルートを作るなどしてグランフィスト側から独立するような動きを取り。


 その渦中から切り離されていた俺は、何も知らず、知れず、日々の糧を得るために冒険者を続けていたのだった。

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