クリア報酬(原案)
俺たちがレベル30まで、あとどれくらいかかるか試算してみた。
推測だけど、3ヶ月以上。
下手すると半年。
流石に、それを待ってから攻略していてはバラン達に負けるだろう。
レベル29なら1ヶ月と少しで済むはずなので、そこが限界だろうか? それ以上は難しいと思う。
ただね?
命を賭けてまでバラン達に勝ちたいわけではない。俺は死にたくないのだ。死なせたくないのだ。
意地を張ってバランパーティに先行する必要はない。
平均レベルが2つ近く違うので、素直に負けを認めるべきだろう。
負けたからと言って何があるという訳でもないし。
「うーん、無理は出来ないですよね」
「はい。事前情報の収集をお願いしますね」
「特にボスの情報! よろしくお願いします! あと、叶えてもらうお願いは決まりましたか?」
みんなも、悔しいといった風ではなく、どこか諦め気味という訳でもなく、自分たちの為に利用してやろうという感じであった。
長く探索をしていれば5層の難しさも理解でき、バランが一軍と二軍を分けた事も理解できている。彼の決断に理解が出来た事で納得を得て悔しさは溶けていったようだ。
だけど、だからと言って攻略を諦めるわけではない。
自分たちのダンジョン攻略の為にしっかり使ってやろうという強かさも見せている。
みんな、本当に強くなったよな。
……一軍復帰は出来ないんだけどね!
そして話は俺の「神様に叶えてもらうお願い」に移る。
婚約者のイルだけでなく、桜花や三人娘、ミレニア、イーリスやララも興味津々である。
「今は人間を辞めるつもりはないとして、全ジョブ解放とか、かな? レベル10で」
「今は!?」
「全ジョブ解放!?」
「それ、叶えてもらえるんですの?」
とりあえずのお願いとして、最初はレベル上限無視の全ジョブ解放をお願いしてみる事にした。
できる事の幅が一気に広がるし、経験値もその分もらえればステータスも人外レベルまで上げられる。
何気に、最終ジョブは50ぐらいあるし。……東方系ジョブまで可能なら100超えたんだっけ? とにかく凄い事になるだろう。
無理かもしれないけど、言うだけ言ってみるつもりだ。
他にも強化案を一通り並べてみると、みんなは「とんでもないこと言ってやがる、こいつ」という目を俺に向けた。
俺の発言に騒ぎ出した皆だが、桜花とイルの2人だけはこちらをじっと見ている。
「日本に帰るとは、言わないんですね」
「こっちよりも安全じゃないんですか?」
二人は俺がこの世界から居なくなることを心配していたようだ。
いや、普通にありえない選択肢を言われてもね?
「この身体は日本の俺とは全く違うんでね。この身体をどうにかしてもらって、戸籍とかどうにかしてもらって、それから生活基盤も用意してもらって。
そこまでお願いできるなら選択肢にも入るんだけどね?
そっちの方がありえないでしょ」
お願いの仕方にもよるんだろうけどさ。そっちの方が俺には無理な選択だと思える。
だから俺が日本に帰るという選択肢を選ぶ事は無い。
それに、だ。
みんなとの別れを選ぶには、こちらでの生活期間が長すぎる。
親とか友人とか同僚には悪いけど、向こうの俺は死んだものとして扱ってもらうしかないと思ってる。
今のところ、俺が自発的に願い事の順番を変える事は無いだろう。