流行病の鎮静化
病気が流行っていたが、徐々に影響が小さくなっている。
もうしばらく経てば、一月もしないうちにグランフィストは復活する。
領主の広報により、グランフィストの雰囲気がずいぶん明るくなった。
これまではいつ発病するかと怯えている人が多かったし、すでに発病した人の看病などでどこか疲れて落ち込んだ雰囲気だったのだが、このままいけばそんな心配をしなくてもよくなると活気が戻ってきた。
もともと良い方向に向かっているという実感があってもまた何か悪い事が起きるのかもといった空気だったのだが、それが領主の言葉で払拭され、ようやく終わったと思えるようになったのだ。
だからこそ。
もしも“敵”が動くとしたらこのタイミングだったのだろう。
絶望の暗闇の中、ようやく見えた希望に手を伸ばし、その希望が幻だと知ったら。そこで完全に心が折れるだろうから。
だから、相川と老人が尻尾を出してしまったのもしょうがないと言えた。
もしもあの二人のどちらかが≪アイテムボックス≫相応の品を持っていれば話は違ったのだろうが、ありがたい事にそのような事は無かった。
井戸に何かを入れて、病気を広めようとしている現場を押さえることに成功したのである。
相手にバレないほど高レベルな監視から衛兵に連絡が行き、すぐさま二人を取り押さえることに成功する。
こう言ったシチュエーションでは俺の出番があるのが物語などでは普通なのかもしれないが、残念ながら俺の所属は民間企業相当の冒険者ギルド。よってレベルや立場を考えれば重要人物と言っても過言でなかろうが、結局のところは一般人にカテゴライズされる俺の出番は無かったのである。
治安維持を仕事とする公的機関、衛兵さんの手によって、グランフィストの治安は守られたのである。
まぁ、普通に考えたら殺人事件で探偵が証人以外で事件解決に関わるとかありえないからね。それはお巡りさんの仕事であり、一般人を関わらせるとかありえない。そもそも現場検証その他のやり方すら雑なTVドラマの警察の仕事風景などなにも参考にならないし。
フィクションはフィクション、現実とは違うのである。
同じなのは、警察官だって仕事人としてのプライドを持っているという事ぐらいだろう。
アゾールさんは事件を解決したことを誇り、それまで2回にわたる流行病という失態を悔やんでいるようであった。
相川と老人は、早い段階で処理された。細かい話は聞いてないけど、たぶん殺されてる。もしくはダルマ。
首を晒すなどしないのは、蘇生を防ぐ為だろう。死んだことを知らなければ蘇生される事も無い。あとは流行病がテロでなくただの自然災害とすることで領主の問題対応能力に疑問を持たれることを防ぎたかったのかね。
まぁ、表に出てこないだけで殺してはいると思うけど。
相川のジョブが何かは『戦士』『騎士』系統だったという以外がパッと思い出せないが、前線系のジョブでも高レベルだと両手両足を失った後だろうが怖いからな。流石に腰から下を切り離せば死ぬし。
魔法系のジョブなら言うに及ばず。両目を抉って舌を切り取り、喉を潰したとしても安心できない。老人のジョブは不明なので、誰も油断しないだろう。
やっぱりダルマは無いな。
蘇生されるリスクがあるけど、殺しておく方が無難だ。
そうそう。
相川とヤマト村の関係についてだけど、今回は無関係という事で話がまとまった。
さすがに≪死者蘇生≫を使える連中には監視が付くけど、基本的にはお咎めなしである。
理由としては、相川がヤマト村から長期間離れていたこと。グランフィストに戻って来てからも相川らがヤマト村に戻らなかったこと。
なにより、ヤマト村の処分などと言う話になった時の被害が大きすぎる。高レベル冒険者を多く抱えるヤマト村と敵対するのは得策ではないし、最近は東方交易もやっているのでその利益が惜しい。
ほぼ存在しないリターンに対しリスクとデメリットが際立つのである。
こうして流行病の騒動はグランフィスト全体で一つの区切りを終えて。
俺たちは普通の生活に戻れるようになったのであった。




