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北極星の竜召喚士  作者: 猫の人
ギルド/PK
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負の連鎖

 ダンジョン前で嫌な事と臨時収入があったが、ダンジョン内では何も無かった。

 あたりを探してもお宝や小銭の類は無く、人にもモンスターにも出くわさない。

 浅い所を歩いているとはいえ、無意味に時間だけが過ぎ、そのまま往復4時間でダンジョン探索を切り上げた。


 これ以上進むと、2人+召喚だけでは厳しいだろうし。

 焦ってもいい事はないのだ。





 ダンジョンを出ると、お昼を過ぎたあたりである。

 戻りの途中、保存食の古い物を消費期限前に食べておく。こういった事をするのは異世界も日本も変わらない。


 お行儀悪く昼飯を食べ終えると、宿に入ろうとしたところで身なりのいい青年から声をかけられた。


「レッド・スミス様ですね? 私、領主様の所で文官をしております、ジャニスと申します。少し、お時間を割いていただけませんか?」

「え? あ、はい」


 礼服と言うか、フォーマルな格好をした人に丁寧な喋りをされ、ちょっと慌てる。

 ぱっと思い当たる事は、無くもないが、それでも俺にとって領主とは雲上人であり、縁が無いと思っている相手である。状況がつかめずに慌てるのも仕方がない、はずだ。


 と、そこで少し冷静になる。

 いま、このジャニスさんは「領主の所で文官をしている」とは言ったが、「領主様は俺に用がある」と言ったわけではない。

 偉い人に会わなくて済む。小市民的な俺はその事に思い至り、胸を撫で下ろした。



 実際、俺と直接話をするのはジャニスさんのようだ。宿の一角を使い、話し合いを始める。

 あ、「様」は無しでお願いしますね。中身の年齢はともかく、今は若輩者で新米冒険者ですから。


「まず、メイドサーヴァント3()の件について、お悔やみ申し上げます」


 ジャニスさんはそう言うと頭を下げる。


「今回はその件と、今朝の件も含めまして、レッドさんにお話があります。

 まず、あの事件についての報告からですね。

 犯人は日本人冒険者のギルド、『日本帰還互助会』のメンバーでした。日本に帰りたい、その思いでダンジョンに挑んでおられた方々ですね。凶行に至った理由は、遅々として進まない中層以降のダンジョン攻略が理由となっています」


 ジャニスさんの言葉に、僅かに違和感を感じた。

 領主側が日本人冒険者についてある程度以上の情報を得ている事は分かるけど、何かがおかしいと引っかかった。

 あ。「理由となっています」の部分か?


「3人と一緒にいた他の冒険者と衛兵の計5名を殺害し、捕縛の過程で犯人6人中5人が死亡、1人は生きて捕まえることに成功したので公開処刑にいたしました。

 公開処刑についてはレッドさんも参加されましたし、細かい説明は不要ですよね? 犯人6人全員の死亡が確認されています」


 ああ、そこは特に問題ないな。

 俺は首肯し、続きを促す。


「領主様はギルド『日本帰還互助会』に対し、監督不十分を理由に解散命令を出しました。

 もっとも、再結成を完全に無効化することはできませんので、6つのギルドに分割するにとどまりましたが」


 組織が巨大すぎるので末端が制御できなくなるというのは理屈としては分かるが、だからと言ってギルド解体の理由には弱い気がする。

 きっと何か、領主の都合というか、他に理由があるんだろう。


「新しいギルド、新しい体制。目的は同じ「日本に帰る」でも、その他の細かい部分はやはり異なります。

 そして新しいギルドマスターのうちの一人が、今回のギルド解体で不平不満をレッドさんにぶつけることを決めたのです。理由はどうでもいいのでしょう。とりあえず殴っても大丈夫そうな相手を選び、憂さ晴らしをしたかっただけのようです。

 そのギルドはあの場にいなかったものも含め、メンバー全員を拘束しました。数が数ですので、今回はまとめて処分(・・)ですね」


 処分ときましたよ。

 それはやりすぎ、という気もしたけど、このグランフィストの法がその罰を決めたのなら、俺がとやかく言う事でもないか。

 ラノベによくある奴隷の首輪とかあればいいんだろうけど、この世界には奴隷制すら無いんだよな。製作者の趣味ではなく、ゲーム的な都合で。

 奴隷落ちなら、まだ仲間が助けてくれたかもしれないのに。


「問題はその後です。

 残るギルド5つのうち、3つが今回の判決に異議を申し立てました。そして被害者であるレッドさんが罰を決めたわけでもないのに、レッドさんに文句を付けようとしています」

「はい?」

「人権がどうの、命の価値がどうの、民主主義ならどうのとか。正直、我々には理解し難い発言を繰り返していました。

 我々が彼らの主張を理解できないと、受け入れる気が無いと分かると、レッドさんに苦情を言うと言いだしまして」

「……なんでそうなった?」

「私には分かりかねます。彼らの主張は筋が通っていませんので」


 思わず漏れた俺のつぶやきに対し、ジャニスさんは処置無しといった具合に首を横に振った。

 俺だって理解したくないよ、そんな考え。

 それよりも日本人、異国にいるのにその国の文化を蔑ろにするな。ちゃんと法律を守れ、法治国家の出身者よ。



「今回の不手際に対し、領主様はレッドさんの一時保護を決めました。

 領主の館ではなく衛兵の宿舎で寝泊まりをしていただきたいと思います。また、ダンジョン前までの付き添いを派遣します。期間の方は、まずは一ヶ月を考えています。

 もちろん、今回の一時保護にかかる費用は無料です。ギルド解体の際に徴収した彼らの資金から捻出しますので、お金の心配は必要ありません。

 それに……」


 彼にとってはこれが本題なのだろう。ジャニスさんは俺に引っ越しをしてはどうかと聞いてきた。

 いや、聞かれているが、実際は強制のようなものだろう。濁した言葉の後に宿の主人の方へ目をやったが、これはつまり、俺がこの場に留まれば宿に迷惑がかかると言っているようなものだ。そして俺は宿に迷惑をかけたくない。


 至れり尽くせりといった扱いだが、あまりいい気分ではない。自分が望んだことでもなく、流されている自覚はあるが、提案は受け入れるしかないだろう。


「よろしくお願いします」

「レッド様、即断即決、ありがとうございます。では宿舎などの手配がありますので、私はこれで失礼します」


 どうしようもない流れに流されようと、流される事ぐらいは自分の意志で決めよう。

 その程度の格好をつけるため、俺はジャニスさんに頭を下げた。

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