救いの手は小さく
冒険者ギルドとしては、職員の安全を第一に考えている。
ついでにその家族に対しても気を使うようにしている。
だけど、冒険者ギルドに所属しているか・いないかで対応は変わる。当たり前である。どこの世界に職員の家族にまで社員と変わらぬ福利厚生を適用する会社があるというのだ。
まぁ、探せばあるかもしれないけどさ。
ダンジョンでレベルを上げて病気に強くなろうという話は領主側でもやる事になった。
軍を使ってその身内から順にレベル上げを手伝い、少しでも被害を減らそうというのだ。
老人や赤子のような全く戦えない者をどうするのかという問題があったが、できそうな人間を優先するため、その問題は先送りになった。
そういったレベルの低い人に治療・投薬を優先するようにして、レベルを上げれそうな人は自力で頑張れ。それでいいと思う。
ついでに、この仕事に従事することで領主の息子殺害に俺達の名前が使われた件については不問とするという形で話をまとめてもらう事にした。
何度もやったら怒られるし法の実行力が低いとみなされる悪手だが、そもそも俺達は無実であり、裁かれるべき立場にない。
これは形式であり、対外的なものでしかない。
残念ながら、そうやって奉仕活動を行っているという形式を取ったことで俺達に罪があるという認識をされかねない部分もある。
だが、みんなで協議した結果、それが一番無難だという結論になったのだ。
こんな時には一番頼りになったジョンの離脱は何気に大きい。もっといい手段があったかもしれないんだけどね。
病気への耐性を高めるために健康的な生活をしてもらおうと、食事や睡眠の大切さを周知するようにしている。
だけどこれ、睡眠の方はあんまり守られていないというのが現状だ。
なぜなら、今のグランフィストは不夜城だからである。
去年ぐらいに産業革命を推し進めてきたので街は夜でも明るく、稼ぎが良くなった事で夜間に酒を飲む連中が増えてしまったのだ。
深夜営業とまでは言わないが、日の落ちた夜間にまで店を開いても儲かる環境ができている。
そうなるとこれまでよりも睡眠時間が減るのは自明の理であり、グランフィストの住人が不健康生活をしてしまうのもしょうがないと言えた。
子供だけでなく、大人だろうと夜遊びが大好きなのだ。
ヤってることは違うけどな。
夜更かしのおかげでおかげで体調を崩す奴は増加傾向にあり、そこに流行病という駄目押しをされたため、若い男から中年男までが寝込む事態になっている。
お上から早く寝るようにと指導されても、やるなと言われる事だからこそやりたくなってしまうのが人情という訳で。あんまり効果は上がっていない。
ついでに夜遅くまで働かなきゃ生きていけない奴も多いわけだ。
ついでにマスクとか手洗いなども、これまでの習慣に無かったことなので徹底できないどころかごく一部にしか受け入れられない。
悲しいかな、新しい事はその有効性を証明されるまで広まらない。
広まらないから有効性を証明するのが難しい。
負のループの完成である。
それでも何もしない訳にはいかないと、生活習慣の改善や衛生管理の概念を身近な所から広めている。
実を結ぶのは何年後かね?
まぁ、言う事を聞かない連中が病で死ぬのを受け入れちゃえばいいんだけどねー。
俺は神様じゃないので、何でもできるってわけでも無いし。




