民衆・総冒険者計画
ジャニスからの話は、冒険者ギルドの扱いだった。
先のテミス襲撃事件の件で冒険者ギルドに対して何もしないのは不味いと言う事だったが、残念ながら、それに俺が付き合う道理はない。
と言うより、この状況下でそんな些細な事を気にする奴がいるとも思わない。
「グランフィストは混乱していますが、他はそうでもないんです。
特に王都なんかは今回の襲撃に対して絡んでくる気があるとはっきりしています」
「それよりも病気の治療方法をどうにかするほうが先だろうに」
「政治的に言えば今回の病でどれだけ人が死のうと気にならないんですよ。王都の人間にしてみればグランフィストの人は数字、それ以上の価値を持ちません」
グランフィストだけで見れば特に問題ないというのはジャニスも同じ意見だが、対外的なパフォーマンスが必要だと頭を下げる。
「負担を強いてしまうのは申し訳ないのですが、ここは一つ、協力をお願いします!」
「直接何かをするのは断らせてもらうよ。名前を貸すぐらいはしてもいいけど、今、自由に動けないのは不味い」
ジャニスの言いたいことは分かるんだけどね。
それでも、ジャニスを信用しきれない今は従う気にならない。
普通に考えて、自分たちに、冒険者ギルドに裏から手を回そうとしていた連中に協力する道理はないんだよ?
ジャニスはそこを分かっていない。
こいつは“グランフィストの為”を金看板として掲げているけど、それは水戸のご老公の印籠ではないのだ。俺が平伏する理由にはならない。
情けない顔をするジャニスを追い出し、現状確認してみる。
まず、薬は全く足りていない。
グランフィスト全体でも1万人を救えればいい方である。俺のところ、冒険者ギルド関係者はこちらの用意していたストックを放出することで対応できたが、一般市民は全滅に近い。
低レベル者では病に対抗しきれないのだ。
それを踏まえて、冒険者ギルドでは一つの試みをしてみようという話になっている。
それは「冒険者ギルドの関係者のレベルも上げてしまおう」という作戦だ。
単純に、低レベルだから駄目だというなら、高レベルに成れるように面倒を見ればいい。
ブートキャンプで1月も頑張れば≪病気耐性≫スキルのレベルも上げられるし、素のステータスが高ければやはり病気になり難くなる。
この世界では、体を鍛える事がそのまま健康に繋がるのである。
一般市民だ冒険者だと騒がずに、ただレベルを上げればいい。
レベルアップの有用性については言うまでもないので、せめてレベル5か6までは手を貸そう。
実験的な試みなのでまずは身内を優先するけど、それぐらいなら問題ないはずだ。
領主側への連絡もして、体裁を整える事も忘れない。
運よく『神官』ジョブ持ちが手に入れば病気への対応もやりやすくなるからね。
レベル5ぐらいなら衛兵が制圧するのに困ることも無いだろうし。
それに一般人と冒険者の差がちょっと減るっていうのも良い事だと思うんだ。
だからこれぐらいは認めてほしいな。