幕間:冒険者ギルドの裏切り者
「どういう事だ!」
冒険者ギルド、『北極星』。
その建物の1階部分は共用スペースとして使われるが、2階は会議室や執務室などの運営用のスペースとして使われている。
その運営用のスペース、大会議室に怒号が響き渡った。
「どういう事だ、ジョン! 場合によっちゃあ、俺はテメェをぶっ殺さなきゃならねぇ」
声を大にして怒りを見せているのはバラン。
冒険者ギルドでも最大規模の2大クラン『夜明けの光』のクランリーダーだ。
そして涼しい顔でバランの怒りを受け止めているのも2大クランと言われるクランのリーダー。『破邪の剣』のジョンである。
本来であればこういった場には必ず出席するレッドはいない。
バランはジョンと事前に話し合いたいと、互いのクランメンバーだけで腹の探り合いをすると言い出したからだ。レッドもバランの意を汲み、それを認めた。
事の起こりはテミスの殺害事件だが、バランはその件についてあまり気にしていない。
問題は、「冒険者ギルドを害そうとしていたテミスにジョンが協力していたこと」だ。
要は、バランはジョンの事を裏切り者と糾弾しているのである。
冒険者ギルド立ち上げ初期から、今の形にするために2年以上頑張ってきた仲間が実は裏切り者だと知れば、バランの怒りは尤もなものだろう。同じ『夜明けの光』のメンバーだけでなく、『破邪の剣』のメンバーですら怒りや困惑といった顔を見せ、ジョンに対して好意的ではない。
もともと旧体制の時に、領主が大手冒険者ギルドに対して規制を行うためにあれこれしているという噂はあったが、そこに他の冒険者ギルドのメンバーが関わってくるとなると話がいくつも違ってくる。
権力と結託して商売敵を潰してきたという話になる。
それは外聞が悪いというものでは済まない。ジョンのせいで職を失い仲間と別れ、破滅した者達の怒りや恨みを一身に受けることになるからだ。その彼らの中には『北極星』のメンバーも含まれる。
こうなると手立てはジョンを追放するだけでは済まず、冒険者ギルドとしてジョンを罰する必要がある。
そしてその罰は当時の『破邪の剣』のメンバー、今の『北極星』の最前線を支える主力たちにも波及せざるを得ない。そうなると最近入って来たばかりの者の中にいる、『破邪の剣』に憧れたり恩義を感じている者にも大きな影響を及ぼすだろう。
冒険者ギルド、分裂の危機である。
「全てはグランフィストの為、だ」
「何がグランフィストの為だ! お前が、お前らがやってきたのは! ただの薄汚い犯罪だろうが! 冒険者としてやっちゃいけねぇ領分ってモンがあるだろうが!!
このままいきゃあ、グランフィストに混乱を起こすだけの、足を引っ張るだけの、ただの馬鹿だろうが! そんな事もわかんねぇのか!!」
「それは結果論だ、バラン」
「ふざけるなよテメェ!!」
ジョンは己の信念に従い行動している。
よってバランに何を言われようと揺るがない。
そんなジョンをバランは憎々しげに睨みつけ罵声を浴びせるが、動じないジョンにより怒りを燃やすようになってしまう。
バランはケジメを付けろと言っているのだ。
悪い事は悪い事と認め、頭を下げ、詫びを入れ。
そうやってジョンが筋を通していれば、ここまで怒りを見せる事など無い。
しかしジョンは悪びれず、悪事に加担したと認めず、正しい事をしているといった態度を取る。
ジョンがここで頭を下げることになれば、それは主であるテミスの汚点となり、同時に友人であるジャニスに迷惑をかける。
冒険者ギルドよりも優先すべきものの為に、ジョンは悪びれず、頭を下げない。
その後、レッドを含む全クランのリーダーたちの会議において、ジョンの放逐が決定された。『破邪の剣』はサブリーダーが繰り上がりでリーダーになったが、若手をはじめとした一団は別のクランに移籍し、その規模を大幅に縮小することになる。
『破邪の剣』への対応が甘いという流れになったが、バランが「全部ジョンが独断で行った事だ、他の連中は関わってねぇ」と擁護をしたのである。
対外的な難しい対応を迫られる中、冒険者ギルドの混乱は一層その度合いを増していくのだった。




