幕間:領主サイド
「どういう事だ!!」
グランフィスト領主の住む館。そこに怒号が響き渡った。
声を荒げるのはこの街の領主その人だ。事件を報告に来たジャニスに対し、怒りといら立ちを隠さず鋭い視線を向ける。
対する報告者、ジャニスは息も絶え絶えである。
彼は普段身を置き慣れぬ戦場、そこで命の危機にさらされたのだから。
もしもあの場に幼馴染にして盟友たるジョンがいなかったら。彼もまた、無残に屍を晒していただろう。
事の起こりは1時間ほど前。
領主の後継者であるテミスの集合に応じ、今後を協議していた時の事だった。
いつものメンバー、いつもの話し合い。
だから、そのままいつものように話し合いは順調に終わるはずだった。
しかし、そこに二人の乱入者が現れる。
彼らはヤマト村の住人であり、話し合いに参加する者と顔見知りであった。
だからテミスの協力者は何の疑問も抱かず近付き、そのまま切り殺された。
その瞬間、ジョンは乱入者の一人に斬りかかった。敵と認識し、殺害を含めた方法で無力化するためである。まさに電光石火、問答無用の対応である。
しかし、乱入者は二人。
もう一人はジョンを無視し、テミスを切り殺した。
そこで賊は宣言したのである。
冒険者ギルドの敵対者であり害悪であるテミスを敵と認定し、排除すると。
そこまでされれば他の面々も動き出す。
ヤマト村の協力者は賊を相手に戦いを挑み、ジョンと共にこれを撃退する。
ジャニスはその後すぐに報告の為、領主の元を訪れたのだった。
テミスは領主の息子であり、グランフィストにおける重要人物である。
最重要人物である領主に一枚劣るが、それでも寿命以外の死を許容できるものではない。ジャニスの同僚が教会に走り、蘇生を準備させている。
蘇生に使う死体については≪アイテムボックス≫を使えるジョンが回収し運ぶ段取りになっている。
数日は寝込むことになるが、テミスは確実に生き返るだろう。
状況を把握すると、領主は深く息を吐いた。
「犯人はどうなっている? 黒幕は調べているだろうな?
これで本当に冒険者ギルドの、あの男が犯人などとくだらぬことを言わないだろうな」
領主はレッドを疑っていない。さすがにここまで愚かな行動をするとは思っておらず、今回の件で誰が得をし、何を成そうとしているのかと思考を巡らせる。
そして問いをかけられたジャニスは、まだ何も分からない事を報告する。予測を立てられるほどの情報が無いのは彼も同じだ。犯人の片方を生け捕りにしたので、そこから情報を得る算段である。
冒険者ギルドが得をしないことがはっきりしているため、ジャニスもレッドを疑ってはいない。
だが、一時的に泥をかぶってもらう必要はあるかと、少しでも被害を抑えるように今後の予定を考える。
グランフィストの混乱は、惨劇は始まったばかりである。




