そして惨劇の幕が開ける
「アイカワが戻ってきたらしいぞ」
その事件は、そんな何気ない一言から始まった。
「んー。ちょっと防備を見直した方がいいかな? あと、ヤマト村の監視を監視するように言っておこうか」
話を聞いた俺はすぐに警戒を強める事にした。
相川のレベルは推定27だったため、まだ俺よりも格上だろうと考えての事だ。冒険者ギルドの戦力を集めれば勝てない相手ではないが、だからと言って油断できる相手ではない。
重ねて言えば、ヤマト村の連中と俺は、そこそこ改善したとはいえ、感情面ではやはり敵対関係にある。全く信用できないのだ。
ただ、警戒はしてもそれ以上の事を俺はしなかった。
「何が起きたのか」を正確に知った後であればもっと別の対応をしたのだが、この時の俺はそれ以上を考えなかったし、何か動くといったことも無かった。
相川がトチ狂っていようが、他の連中はそれなりに理性的だし、打算も利く。
よって悪い方に大きな動きを見せられるほど統率を取れるとは思っていないし、ましてやグランフィストにおける俺の立場を揺るがそうとするなど、考えの外であった。
相川が戻ってきたと聞いた、その次の日。
ヤマト村の連中により、グランフィスト領主の息子であるテミスが殺された。
ご丁寧に犯行声明まで付けて。
そして彼らの言い分は、半分は納得できるものであり、もう半分は絶対に許容できないものであった。
曰く、
「大罪人テミスは、グランフィストに大きく貢献する冒険者ギルドに対し、不当な干渉を行い、これの勢力を削り、私物化しようとした!
よって正義の名のもとにその首を刎ねた!!」
と、いうものだ。
正義を名乗ろうが何をしようが構わないが、冒険者ギルドの名前は出さないで欲しかった。まるで俺がこの凶行の関係者のようであり、俺が指示したみたいな雰囲気が形成されつつある。
俺に気を使ったという訳では無いだろうが、犯行声明では俺に指示されたとか冒険者ギルドの誰が言い出したとか、そんな話は出ていない。そもそも何か企みがあったとか、それすら俺は知らないのだが。
とにかく冒険者ギルド『北極星』への風当たりが強くなりそうであった。
単純な解決策は、俺が無実であると証明するように領主への臣従をするべきなんだろう。だが、出来ればそれはしたくない。勘でしかないが悪手に思えるからだ。
いやはや。
この騒ぎはどう収拾すればいいんだろうね?