ホブリン戦・中盤
ホブリンたちは森の中でも綺麗に整列している。
そして、前にいる者は大楯を構えていた。
大楯。タワーシールドとも言われるそれは、ホブリンの全身を完全に隠してしまう。
通常の戦場であれば敵の姿を見失う愚行であるが、ここは異世界でゲームのような戦場である。有視界下における戦闘とはただ目に映る景色の話ではなく、「スキルによる知覚を含む」のだ。視線が遮られるぐらい、大したことではない。
そしておそらく、大楯の後ろには矢を番えた弓を構える兵がいるだろうな。
「バラン、アドン、サムソン、シャンドラ!」
「応よ!」
「この一撃に、賭ける!」
「撃ちます!」
敵の姿が見えたならとジョンの声が響き、こちらの弓兵部隊に声がかかる。
戦の挨拶、弓による射撃合戦だ。
≪アローレイン≫などのスキルが上乗せされた矢が、敵味方の頭上に降る。
「≪エアカーテン≫!」
「≪ゼピュロス≫!」
相手は大楯で防ぐが、こちらは魔法で防ぐ。前列に出ていた風属性の魔法使いが二人、敵の矢を風で残らず吹き飛ばした。
逆にこちらの矢はある程度的に突き刺さったらしく、鉄錆に似た、血の臭いが少しこちらに流れてきた。
「レッド、突撃!」
「≪神竜召喚≫レヴィア! 踏み潰せ!!」
遠距離攻撃ではこちらが多少優位に立った。しかしそれで戦いの趨勢が決したわけではない。戦場はすぐに次の場面に移る。
次の手は近接戦闘による敵の前列破壊だ。
その先鋒の役を受け持つのは俺、正しくは頑丈さがウリのレヴィアである。この子はVITとMIN、そしてHPが俺の召喚モンスターでは一番の子である。とにかく硬く、がコンセプトになっている。
体格もそれに比例して大きく、最大速度ではティナに、腕力・脚力などの出力ではマリーに劣るが、生存能力なら誰にも負けない。
このあいだ戦った翠玉宝竜には一歩劣るが、ホブリン“ごとき”に負ける謂れは無い。
レヴィアの突撃は直線的ではあったが、ホブリンの大楯を持っていた奴ごと弾き飛ばし、敵の戦列に大きな穴を開けた。
「食い破る! 俺に続け!」
そしてその穴にジョンが突っ込んだ。近接戦闘最強の男が敵の蹂躙を開始し、その仲間が後に続く。
「――!!」
このまま押し切れるか。
そう思った俺だが、これだけでどうにかなるならジョンやバランも苦労しなかったのだろう。ホブリンはこちらの流れなど断ち切ってみせるとばかりに叫び声を響かせた。
すると空いたはずの穴、その周辺にいたホブリンは装備を武器から大楯に入れ替え、歪ではあるが内部に新しい戦列を作って俺達を包囲してみせる。『手品師』の≪チェンジリング≫だ。武器を≪アイテムボックス≫内の物と交換するスキルで兵種を変更したのだ。
こうなると俺達、突撃部隊は、敵に囲まれ孤立無援となってしまう。
「食い破るぞ!!」
ただ、それでもジョンや俺達の心を折るにはまだ足りない。
絶望が弱すぎる。
希望はちゃんと残っている。
俺達は反転して味方と合流するよりも、集団を統率するボスを倒すことを選んだ。ジョンの号令に従いさらに森の奥に進む。
あとは合わせて動いてくれるだろう後方の仲間が上手くやれば、敵ボスを追う俺達、俺たちを追う敵の雑魚、敵の雑魚を相当するバランたちといった、混沌とした状況が生まれる。
乱戦になれば数の優位は上手く機能せず、徐々にこちらに流れが来るだろう。
問題は森に深入りするとこちらが各個撃破されて終わるため、早くボスまでたどり着かねばならない事だ。背後からの攻撃に対応しては時間が無くなるし、それはもう無視するしかないだろうな。
今は戦術的にボスが優先なのである。
敵の中核を潰す。
戦の基本に忠実に俺達は戦うのだった。