素材売却
戦闘は収入を得るために行うものである。
そして、今回は虎の子の『精霊の酒』を使ったために赤字覚悟であったが――今回も黒字になるようである。
「1000! 1000出すぞ!!」
「馬鹿を言うな! あれの鱗は私の物だ!! 1200! 1200だ!!」
商人たちが、商品――翠玉宝竜の鱗の山を前に大声を上げている。
彼らの言う数字は1000ゴールドや1200ゴールドなどという“小銭”ではない。1000万、1200万ゴールドと言った大金である。
下手すると、村どころかそこそこの町ですら買えそうなお値段である。
俺の目の前で、普通のボス素材ではありえないほどの金が動こうとしていた。
俺達は、倒したボス素材の売却を行った。
『翠玉宝竜』の素材を、である。
翠玉宝竜だが、当たり前のように名前を知っている俺とは違い、この世界では存在を知られていない大変貴重な存在であったようだ。
そのおかげですごい勢いで売値が釣り上がっている。
ボス素材の売却だが、ギルドは複数の商人とつながりがあるため、その商人を一堂に介して売り払うのが一般的である。
その方法はオークションの様なやり取りではなく、市場の競りと言った方が正しい。出された物に商人たちが値を言い合い、最も高かった値を付けた者が購入する仕組みだ。
細かいルールは存在するが、俺が気にする事でもない。そのあたりは事務員たちに任せている。
肝心の翠玉宝竜はレアボス、つまり安定供給が見込めないモンスターである。
これが通常のボスであればそこそこ高めの値が付くのだが、それでも常識の範囲内で収まっただろう。しかし二度と手に入らないかもしれないレア素材で、見た目が美しい宝石にしか見えない鱗などは分かりやすい貴重品である。面白いように値が上がる。
翠玉宝竜は、その名の通り、全身の鱗が翠玉に見える。しかも魔法に対する高い親和性があるようで、各種魔法素材としても超一級品。それだけでも高値が付く訳である。これにレアリティ補正が加わるのだから、商人たちが必死に値を付けるのも肯けるものだ。
正直な考えを言えば、2トントラック並みの大きさをもつ翠玉宝竜であるから、その価値がある程度落ちる物だと思っていた。
大量放出による値崩れを懸念していたのである。
しかし実際は一つの商会が独占しようと躍起になっているので、値が釣り上がる方向に振り切れている。……売却はするけど、一括清算は諦めた方が良さそうだ。分割を許可した方が何かと問題になりにくそうである。
こっちとしては複数の商会に買ってもらいたいと提案してみたが、可能なら独占販売を、と言われたのでそれを許可したんだけどね。
何が彼らをここまで駆り立てるのか、俺にもよく分からない。
俺に分かる事は、山のような宝石、翠玉宝竜の鱗の売却金額がこれまでの収入を大きく上回る額になったという事実だけだった。
よくもまぁ、こんなに貯め込んでいたものであるなと感心するほどに。
ミレニアに6分の1の額を報酬として支払っても、俺の手元には300万の大金が残った。
ニートになりたい。
慎ましく生きていくだけなら、このお金だけで何の問題も無く生きていけるんだ。
まぁ、無理なんだけどね!