全力戦闘
撤退を。
そう思って言いかけたが、すぐに口を噤んで現実的な思考に切り替える。
残念ながら、『翠玉宝竜』はティナの上位互換である。推定レベル30オーバーの難敵だ。AGI特化のティナにも追いつきかねない敵であるし、何よりもレアボスの嫌な特性、島を越えての追走劇が想定されるために逃げ切れないと考えるのが無難だ。MPはほぼフルだが、持久戦では分が悪い。
ダンジョンのシステムを信用するなら今の俺たちでも倒せる相手のはずだからと、自分の弱気を叱咤して敵を睨む。
「ミレニア、サポート任せた。桜花は目標が近づき次第先制攻撃。威力重視で。騎士三人は前衛よろしく」
「了解」
「わかりました」
「「「はい!」」」
接敵までの間に指示を出す。
予定と大幅に違った会敵であるが、仲間の戦意は十分だ。一瞬でも怯んだのは俺だけかもしれない。そう思うとちょっと情けないな。
ミレニアはサポート用の魔法を中心に使う妖精を召喚。召喚した妖精に補助魔法を使わせ、それが終わると即送還。
育てた召喚モンスターがいるなら、自分でサポート用の魔法を覚えて使うよりも効率が良く、ミレニアは正しく召喚士の強みを見せている。
今のミレニアは『妖精女王』という、妖精版『神竜召喚士』のような召喚士になっている。
妖精たちの基本スペックが高くなった分だけサポート用の魔法も威力が高くなっており、俺たちと敵の戦力差を埋めてくれる。ステータスが増強された分だけ、プレッシャーに押しつぶされそうだった心が少し軽くなったのが分かった。
「≪神竜召喚≫ティナ」
基本は俺も後衛職として振る舞うべきなのかもしれないが、今回ばかりは出し惜しみも何もできない。
ティナには悪いが、あまり良くない召喚士としての戦い方を強いることになる。
「ティナ、突撃だ!!」
「はぁーい!!」
俺の指示に対し、ティナは力強く返事をする。
これからやる事を思うと心が痛むが、自分への命令がどんなものかを分かって尚、ティナの声は明るい。
今はその信頼に応える事に集中しよう。
後衛二人への心配はしなくていい。前衛三人がしっかり守ってくれるだろう。
特に遠距離攻撃にはイルが対応してくれるだろうし、そこは安心している。
そして俺たちは空に舞う敵ボスに向けて全速力で突撃をする。
当たり前のように迎撃をして来るのだが。
「≪ライドガードフォース≫!」
それらは俺の防御用スキルで対応する。
≪ライドガードフォース≫は騎乗戦闘対応の防御スキル。自分と騎乗動物への攻撃を防ぎダメージを大幅に軽減するスキルで、同時にダメージを俺一人に集める効果もある。
コストは重いものの、ティナにダメージが通って速度が落ちる方が問題だ。俺へのダメージなら『大治癒の薬』でそのまま回復させればいい。
俺の護りとミレニアの支援を受けて、ティナの攻撃はそのまま通る。
速力を威力に替えた、最大ダメージを出す攻撃。
つまりはただの体当たりだが、その威力は絶大だ。
敵ボスとティナは縺れるようにして島へと落下していくのだった。




