復讐者の権利(後)
「改めまして、自己紹介させていただきます。
とある犯罪者の娘で、名をセフィラと言います」
「同じく、妹のピコです」
「「今後とも、どうぞ良しなに」」
骨格とか匂いとか、おおよそ俺の理解し難い理由で“犯人捜し”をやってのけた二人。
しかし、話を聞く限り、俺の想定が甘すぎただけのようである。
「父に恨みを持った人の中で、あれだけの事ができる人は限られています」
「事件の前後で王都に出入りした有名人として、あなたの名前が挙がっていますよ」
「戦闘能力まで加味して考えれば、普通は誰でも考える選択肢でしょうね」
「隠す気が本当にあったのかと、話を聞かせてくれた衛兵さんも首を捻っていましたが?」
「まさか、本当に気が付いていなかったのですか?」
この二人、日本ならまだ中学生相当だというのに、頭の回転が非常に早い様だ。行動力もあり、なかなか侮れない。
ポンポンと話を進め、俺の行動にダメ出しをする。俺は謀略に向いていないのだ、放っておいてほしい。
話を聞いていて思ったのだが、この二人は俺の事を恨んでいないようである。
怒ってはいるのだが、そこに暗い感情が乗っていない。
だから誘拐した事とかその後の対応とか、酷い扱いに対して怒りを感じていても、俺を如何こうしてやろうという意思が見えないのだ。
やったことを考えれば恨まれて当然だと思うのだが。
途中で考えるのが面倒になったので、直接聞く事にした。
「父のやったことは許されませんし、それで私も犯罪者の娘として王都より放逐されました。婚約者にも捨てられましたし。
冒険者として身を立てると話した事で旅費と当面の生活費、グランフィストへの通行証は発行されましたが、もう家には帰れません。
ですから、恨みは父へのものだけですね。元婚約者も、今は見逃してあげましょうという気分です。
ただ、恨むよりも生きていく基盤を作る方が先なんですよね。妹と二人、食べていけるようにならないと駄目ですから、人を恨む余裕もありません。
お金、あんまり無いんですよ」
切実だった。
切実すぎて、泣けてきた。
ほんの一月ちょい前までは裕福な大臣の娘で婚約者もいて、人生は順風満帆だった。
それが親の犯罪が明るみになって一気に転落コース。タイタニックである。
旅費や生活費を切り詰めないと不味いという状況を理解する頭があり、木の根をかじるまではいかないが、ほんの数日で虫を捕まえ焼いて食べるぐらいの生活レベルまで落ちている。
「ですから、折角見つけた犯人さんには、責任を取ってもらおうと思います。
ジョブ解放をしてください。被害者である私達には、貴方にその程度の融通を聞かせるよう復讐する権利があると思います。」
ニコニコと笑ってみせるセフィラ。
言葉も無く泣いていたあの頃の令嬢はもういないようである。追い込まれた事で実に逞しくなっている。
この提案を突っぱねる事は出来たと思うが、俺自身に罪悪感があったのも確かである。
大臣の犯罪行為は俺の責任ではないが、誘拐した挙句に絶食させたり放置したりして酷い目にあわせたのは俺の責任だ。
だからこの可愛らしい復讐者の権利の行使を認めるとしよう。
主に、俺の精神安定のためであるが。