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北極星の竜召喚士  作者: 猫の人
ギルド/PK
25/320

区切り

2話同時投稿です。


1/2

 起きたら、体が動かないほど痛かった。


「マスター!」


 体は動かないけど、まぶたを空ける。

 すると桜花が泣きそうな声で俺を呼んだ。


「マスター! お加減は如何ですか!?」

「あー。桜花、すまん、体が動かない。今日は1日世話になると思う」

「はい! すぐに食事とお水を用意します!!」


 体は動かないが、腹は減っている。そう告げると桜花は宿の下の階、食堂に飯を取りに行ってくれた。

 周囲が静かだからか、桜花と宿の人の話す声が聞こえる。どうやら宿の人たちにも心配をかけていたようだ。俺のように長くこの宿にいる客仲間からも桜花に声をかける人がいるようだ。

 いや。声が聞こえるのは、俺がゆっくり休めるようにという周囲の配慮なのかもしれないな。幼い姿だけに、気を使わせてしまったようだ。そう考えると、周囲の優しさが身に染みるようで心地よい。



 桜花と飯を待っている間、昨日までの事を思い出す。

 メイドトリオ、ローズマリーたちが殺されて、その仇を殴り殺した事を。


 やる事をやったからか、昨日までと違い頭はすっきりしている。

 その結果、昨日の半狂乱の姿に頭を抱えたくなった。

 あれはない。

 そう言いたくなるほど昨日の自分は壊れていた。衛兵さんたちに多大な迷惑をかけたようだし、一度、頭を下げに行くべきだろう。

 それに、礼を言わないといけないよな。後の事を全部任せてしまったのだから。


 いや、それよりもまず、3人の墓を作ろう。

 日本の常識だが、墓は高いのだ。タダで3人の墓を作ってもらえるはずもない。

 死者が俺に何かしてくれることは無いが、それでも、それぐらいはしてあげたい。



「――はい。3人も、喜ぶと思います」


 飯を持って来てくれた桜花に墓の事を話すと、桜花は目を閉じて、搾り出すような声でそれだけ答えてくれた。涙こそ流れていないが、それでも亡き家族を想って何かを堪えるようにまぶたに力を入れている。


 悲しむのも、怒るのも、3人に敵を討ったことを報告するまでにしよう。

 いつまでも悲しみに浸っているのは愚かな事だ。

 いつまでも怒りに囚われているのは死者を汚す事だ。

 3人の遺体は衛兵が処分したと言っていたから、残ったコアを墓に入れよう。高く売れるのだろうけど、これを売るなんてとんでもない。仲間を金に換えるような真似はしたくない。

 そうして、全てに区切りを付けよう。





 飯を食って、もう一度寝直して。

 昨日の不調は何だったのだろうかと思うほど、俺の身体は綺麗に回復した。

 ゲームでは一晩寝ただけでHPが全快する仕様ではなかったので、単純に俺の不調は精神的な物を含む疲労だったのだろう。


 食堂に行くと、宿のおかみさんや他の宿泊客たちが俺に声をかけてくれる。

 まわりの誰もが俺のことを心配してくれていて、この宿にいる人たちは本当にいい人だと、心が落ち着くのを感じた。

 詰所の方でも似たような対応をされ、謝罪と感謝を告げると「子供がそんな、気を使わなくてもいいんだよ」とぶっきらぼうな返しをされた。


 ついでだったので詰め所で3人のお墓を作りたいと言うと、小さな墓でも1000Gほどかかるが、出来ない事はないと許可を貰えた。

 あとは現地で墓守に声をかければいいらしい。遺体は処分済みだし、骨壷代わりに入れるのが手のひらサイズのコア3つなら特に問題ないようだ。





「あいよー。墓の場所が指定した範囲に収まるっていうなら特に問題ねーよ。

 あ、墓石が欲しければ自分で用意しろよ? 冒険者なんだし、墓も自分の手で作るぐらいがちょうどいいだろ」


 墓場へ行き、墓守と交渉をする。

 お金さえ払えばあとは好きにしろといういい加減な人だったが、逆に考えれば面倒な手続きをしなくても構わないという見方もできる。


 墓石はまたあとで、そんな考えでコアだけ先に埋めておく。

 何も無いと場所が分からなくなってしまうだろうから、墓石の代わりの卒塔婆もどきを立てて仮の供養とした。


 最後に、ティナを召喚して桜花と3人で手を合わせる。ティナは頭を下げるだけだったが。



 何にせよ、これで一区切り。

 何をするにしても、これまでの事を引きずることなく先へ進むと、死んだ3人に誓った。


 実際は3人が居ない事が悲しいし、寂しいし、理不尽だと叫びたい気持ちがある。

 それでも、生きている人間は生きていこうとするべきなのだ。

 ローズマリー、フェンネル、キャラウェイ。

 3人に恥じない生き方を、俺はするべきなのだ。



 そう、思おうとしていたんだよ。この時は。

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