帰還
俺は大臣の始末を終えるとエンデュミオン氏に挨拶をしてからグランフィストへと戻った。
大臣を始末したことは教えていない。
衛兵たちと合同で大臣を追っていれば教えたのだが、今回は俺の単独行動である。教える義理は無い。
けして、手伝いを断られたことを根に持っている訳では無い。
「お帰りなさい、マスター」
「「「お帰りなさいませ、マスター」」」
ギルドハウスに戻ると、桜花たちが出迎えてくれた。
メイドトリオも一緒になって頭を下げる。イルはいないが、彼女はダンジョンに行っているようで、タイミングが合わなかったらしい。
「ただいま。無事ではないけど、全部済ませてきたよ」
「お疲れ様でした」
「王都は面倒だね。本当に疲れたよ」
向こうでは単独行動だったため、桜花たちと世間話をするとホッとする。帰ってきた、という気分になるのだ。
皆で食卓を囲み、お喋りをする。
俺は王都であったことを、当たり障りのない部分だけみんなに話し、桜花たちは俺が留守の間のグランフィストで何があったという話をしてもらった。
こっちでは特に大きな事件があったという話は無かったけど、ギルド内で誰が結婚したとか、新しい仕事が受注されたとか、事件じゃなくても大事な話をいくつも教えてもらう。
うん、やっぱり俺はこれでいい。
ダンジョンで戦うのはいいとしても、殺し合いとか恨み恨まれとか、そういった殺伐としたのは俺の世界には要らない。平和が一番だ。
王都から戻ったばかりで疲れていたと言う事で、食事と雑談の後は風呂に入ってからすぐに寝た。
翌日。
昼を少し過ぎた頃に、イルがダンジョンから戻ってきた。パーティメンバーも全員一緒である。
「レッド! お帰りなさい!」
「ただいま、イル」
ノーロープバンジーの恐怖に負けて付いて来なかった彼女であるが、それでも俺を心配する気持ちが無いわけではない。駆け寄って俺に抱き着いた。
俺の身長とイルの身長は、今ではそんなに変わらない。互いの顔は同じぐらいの高さにある。
至近距離で見つめ合い、頭をポンポンと軽く叩いて離れるように促す。わりとはしたないからね。ついでに鎧が地味に痛い。
イルは、はしたない事をしているのに気が付くと、パッと身を離し、顔を赤く染めた。人前だと言う事を思い出したらしい。
「お帰り、イル。ダンジョン探索、お疲れ様」
「うん。ただいま」
今度は俺の方からイルに「お帰り」と言い、イルは「ただいま」と返す。
こうして、俺はグランフィストに帰ってきた。




