抹殺完了
釣りというのは、魚が針を咥えてからが勝負である。
針が抜けぬように。
魚が逃げられないように。
体力を削り、抵抗を弱め。
好機と見れば一気呵成に竿を引く。
ならば、俺の賭けに、俺の網に引っ掛かったこの大臣はどうしてくれようか?
いくつかあった選択肢の中で、門の外での待ちを選んだ理由は「殺したところで問題無いから」である。
他の選択肢では大臣の殺害後に死体を引き渡し、蘇生される可能性があった。
ここで殺せば、遺体を俺が灰にしてしまえば、大臣はもう蘇生できない。
蘇生には腕一本以上と、遺体の一部が必要なので、ここで殺し遺体をどうにかすればその可能性を完全に消し去る事ができる。
王都に来た最初は大臣を殺すのではなく脅す気でいたが、殺せるならそれに越した事はない。
どこかに蘇生用の腕などを保管しておくケースもあるが、落ち目の大臣をわざわざ復活させる奴はいないと思う。
たまに腕を切り落としてから部位欠損回復薬で腕を生やし、蘇生用にストックする奴がいるんだよ。この間殺した刺客もそれで復活させられたようだし。
大臣を蘇生できなくできるというのを逆に言うと。
ここで俺が殺された場合は、俺の蘇生ができなくなると言う事だけどな。
大臣たちの人数は10人以上。2パーティ分である。
正面から戦えば勝てない規模だ。
それが歩きで街道を、グランフィストに向かって移動している。
こいつらの拠点がどうなっているかは知らないが、グランフィストにも何らかの支部のような物があるのだろう。だからこそ、前回はあのような手段をとれたわけだ。
わざわざ俺がいる方に向かって来るという事は、きっと俺に何かする気があるからだろう。こいつらを潰す理由がまた増えた。
「大臣ご一行で間違いないかな?」
「何奴!?」
様式美という訳では無いが、俺は大臣ご一行の前に立ちふさがった。
改めて観察してみると、大臣たちは全身を土ぼこりで汚しており、移動に地下通路のような物を利用したと推測できた。緊急脱出用の地下通路なら通った後に天井を崩すことで追撃を防ぐ事ができる。臭いによる追跡対策にもなるだろう。
悪事に手を染めていただけあって、なかなか用意周到だ。
そして、こいつらはそれなり以上に荒事に慣れていた。
大臣は反射的に声をあげてしまったが、残る連中は大臣を守るように動き、何人かは遠距離攻撃を仕掛けてくる。
まあ、楯で防げば済む威力だったが。
こいつらのレベルはそこまで高くない。
ジョブチェンジもそれぞれ一回ぐらいのレベル15前後。脅威となる理由は数が多い、それだけである。
それを確認した俺はティナを召喚し、その背に乗った。
馬鹿の一つ覚えと言われるが、基本が後衛職の俺はティナの背に乗り高度を上げ、上から一方的に攻撃するのが基本スタイルなのだ。最近は桜花も――とても嫌がるけど――乗せて蹂躙するようになっている。
少なくとも、個人戦でこれをやると遠距離攻撃手段に乏しい連中はほぼ手も足も出なくなり、遠距離が本職であっても高度を取る前に対処できなければそれで詰むというハメ技なのだ。
飛べるうえに遠距離攻撃手段があるというのは、本当に強い。
レベルという名の最大出力勝負でも俺の方が上のため、ティナの魔法で面白いように敵は潰されていく。
俺もあまり得意ではない弓を使って大臣を執拗に狙い、敵の守りを削っていく。スキルも何も無い攻撃だが、たいして動けない大臣を狙う分には問題ないしダメージが通る為、相手も防がないという選択を取れないでいる。
ワンサイドゲーム。
5分も戦えば護衛はもう無理だと余力があるうちに逃げ出しはじめ、大臣の守りはすぐに無くなる。
1人でも数が減ればあとは簡単で、他の連中も逃げていくからだ。
護衛は後で追うにしても、まずは大臣だけ確実に殺しておきたい。俺は弓を引き続ける。
護衛に逃げられた大臣は、護衛よりもさらにレベルの低い大臣は、俺の弓から逃げる事も出来ず喉を貫かれて絶命した。非常に呆気ないが、戦闘能力の無い相手を殺すのだからこんなものなのだろう。
殺した大臣の遺体をティナの魔法で消し炭にして、後は逃げた護衛もまとめて始末した。
さすがに召喚状態で戦闘行為を行えばMPの消費も激しくなり、最後には移動以外はティナ無しで戦う事になったが、それでも敵は全滅できた。
あとは殺した大臣が本物かどうか、偽者ではなかったかという懸念が残るものの、それでもこれで一区切りと言える。
俺の安全は確保されたのだ。
俺以外に多大な被害を出しつつ、だったが。




