処刑
2話同時投稿です。
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事件翌日。
俺は未だにまともに働かない頭を無理やり動かし、詰め所に向かった。
宿では桜花が何か言っていた気がするけど、きっと、たぶん、大したことじゃない気がしたのでそのまま歩き出した。
「その、本当に大丈夫、か?」
「ええ、大丈夫です」
たぶんも何も、今の自分が異常だというのは分かる。
頭はまるで働いてくれないし、痛いし、重い。
体に力が入る感じがしないし、正直、だるい。
でも、処刑は今日で、いま動かないと何もできずに終わる。
それだけは駄目だと、今の俺でもそれぐらいは分かるのだ。
だから、やる。
大丈夫かどうかという問題ではないのだ。
3人と衛兵さんを殺した犯罪者の処刑は、一般公開される。
これは犯罪者への戒め、一罰百戒の役割と同時に、娯楽としての側面を持つ。大衆娯楽の少ない時代は処刑が一番の娯楽だという。例えばギロチンの流行ったフランスの革命直後とか。
そんなところもリアルだよなぁ、そんな事を考えながら、俺は棒を構えた。
余談であるが、こういった事件で被害が少ない時は『棒叩き』で、被害が多い時は『石打』の刑に処せられる。
被害者というか処刑人の数が少ないなら棒を使い、それが難しいほど処刑人候補が多い時はみんなで仲良く石を投げようという話である。
この時代、この世界では被害者は犯罪者に対し物理的な報復が認められているんだよ。
3人の仇は、すでに瀕死の大男だった。
黒髪黒目で、分かりやすい日本人的容姿を持つ奴だ。カラフルな髪の色をした他の連中と比べると、とてもレアだな。そんなどうでもいい感想が出て来る。
時間が来たので、俺はまず治癒薬を相手にかけた。すぐに死なれると困るので。
その後、桜花や殺された衛兵の親父さんだっけ? 白髪頭のおっさんと一緒になって大男を棒で殴った。
最初は、自分はどこか機械的だったと思う。
でも、殴るうちに感情が昂ってきたのか、棒を握る手に力がこもりだした。
「なんで! なんで! なんであの子たちを殺した!!」
自然と、俺の喉から大きな声が出た。
よく狙い、眼球を突く。上手く目に突き刺さった。僅かに漏れたうめき声が怒りを誘う。
「お前が死ねよ! 人を殺すぐらいなら、自分が死ね!」
喉を突く。
なんとなく死にそうだと思ったので、もう一度治癒薬を使う。そして今度は股間を下からすくうように殴った。
「お前はなんで生きてるんだよ!」
さっき俺が治癒薬を使ったからだ。
そんな事は分かっている。
でも、言わずにはいられなかった。
「死ねよ! さっさと死にやがれ!!」
殴る。
殴る。
また治す。
殴る。
殴る。
治そうとして……手持ちの薬がもうないことに気が付いた。
殴る。
殴る。死んだ。
死んでも殴る。
死んでも殴る。
殴る。
殴る。
衛兵さんが、何故か俺を羽交い絞めにした。
棒を振り回そうとして、途中で落とした。
暴れる。
暴れる。
頭に衝撃。
そして、俺の意識は途絶えた。