偵察
と言う訳で、久しぶりに王都にやってきました。
通常の方法で入ると面倒な事になると思ったので、今回は夜の空から舞い降りてみた。
高さが100mほどあったけど、ノーロープバンジーみたいなものだけど、最後に魔法で勢いを殺せるのでさほど怖いとは思わなかった。
出ていく分にはお金さえ払えば問題ないので、帰りは普通に出ていく予定である。
ちなみに、単独行動だ。
イルや桜花をはじめ、パーティの全員が付き添いを断った。まぁ、時速200㎞の空の旅を怖がる連中に、高さ100mから飛び降りようってのは無茶を言いすぎだと思うし。しょうがないよね。
翌朝。
久しぶりの王都は、前よりも賑わっていた。
戦争が終わったことで少し税金が増えたけど、それでも大地の都の復旧で人と物の行き来が活発になっているらしいので、景気は良いようだ。
王都は交易の中心地として栄えた都市なので、この手の特需で潤うようにできている。
ただ、話に聞こえる火と水の都は酷い状況らしい。
増税により生活が苦しくなり、日本人が来る前よりも荒れているようだ。日本人が来て大きく栄えた大都市は、その栄えた分との落差でより雰囲気が悪くなってしまった。
日本人である俺が向かった場合、日本人とバレた段階で命を狙われかねないほど嫌われているようだ。
うん、俺は事が終わったらグランフィストに引っ込もう。あと数年どころか、一生その都市にはいかないよ。
大地の都市はどうか分からないけど、行かなきゃいけない用事もないし、あってもできるだけ断るように立ち回るとしよう。
そうやって街の様子を調べつつ、俺は貴族街の方に足を向ける。
当たり前だが、俺を襲ってきた貴族は貴族の集まる貴族街にいる。貴族なのだから当たり前だ。
「怪しい奴め! 止まれ!!」
そして貴族街っていうのは、許可なく立ち入れる場所ではない。近くに寄っただけで守衛のような男に見咎められる。
貴族街の守り手としては当然の行動であり、なかなか質は高いように見える。
「道に迷ってしまいまして。知り合いからあの塔を目印に北へ向かえば――」
そんな訳で俺はあまり目立たないようにする為、知り合いの貴族、エンデュミオン氏の名前を出して遊びに行く前の口上を伝えに来たのだと説明する。
俺は約束を取り付けるために来たのであり、先方にはこれから会いに行けるか確認するのだとすれば、相手が俺の名前を忘れて覚えていなくても何とかなるのだ。
案の定、この守衛さんは俺の言葉に納得してくれた。
納得したので、付いて行くのだと宣言した。
守衛という都合のいい情報源を入手した俺は、運が良いと笑ってみせた。




