表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
北極星の竜召喚士  作者: 猫の人
東方交易録
236/320

幕間:ダイエット、なう

 六道家の末の姫、芙蓉にとって「太る」というのは苦行であった。


 もしも彼女のジョブが『巫女』など、東方の女性限定ジョブであればそんな苦労は必要なかっただろう。『陰陽師』などの他の魔法系ジョブでもいいが、希少なジョブは好まれる。

 もしも彼女の背がもっと低く胸が無かったらそれはそれで美しいと称されただろう。美しさの基準は様々だが、そこから外れても将軍などの女性の好みに合致していればそれでいい。が、彼女はそのどれからも外れていた。

 もしも彼女の――


 東方における優秀な女性の証明はいくつかあるが、そのいずれも持たずにいた彼女に出来る事は太る事だけだったため、その苦行の果てに美しさを手に入れ、必死に維持していたのだ。


 しかしその美しさも、東方限定でしかなく、グランフィストではまるで通用しないというのは、彼女にとって幸いであると同時に、過去の苦労の全否定であった。

 その衝撃ははかり知れない。

 さらに、自分の周囲にいた者達がその事を教えてくれなかった――彼らはちゃんとこちらの美醜について知っていた――事も彼女にとっては裏切られたようで悲しかったのだが。



 経過はとにかく、芙蓉は太るという苦行から解放されたのである。

 もう苦しくても食べ続ける事をしなくて良くなった、その事実で彼女は自分を慰めるのであった。





「釈然と、しません」

「どうかしたか、イル?」

「いえ。何でもありません」


 芙蓉が始めたダイエットは食事制限と軽い散歩である。

 レッドはそのうち模擬戦でもしてレベル上げに着手しようと考えているが、いきなり戦闘訓練というのは無謀である。ゆっくり出来る事を増やしている最中だ。

 ダイエットに使える時間は約一月のため、本当に戦闘訓練が行われる事はないだろう。人間の体重は一月で30㎏も痩せられようが、さらにそこから戦闘できるレベルには改造できないのだ。



 ダイエットが始まってから半月。

 たったそれだけで、芙蓉の体重は激減していた。


 現在の体重はおおよそ58㎏。マイナス12㎏である。



 食事の量は三分の一、苦行と言える食べすぎ状態を満腹になる事も無い量まで減らされた。

 体を動かすことでカロリー消費がちょっとは増えた。

 コルセットは無理だが、サラシを使う事で腹の肉を押さえた。

 やったのはこれぐらいである。


 もともと、そこまで太りやすい体質ではなかったのだろう。

 ある程度は血肉として本当に身に付いてしまったのだろうが、けっこうな量の脂肪が無理矢理にくっ付けられていただけだったようだ。

 普通の生活をすれば、若いうちは簡単に体重が減る事もある。年を取ってしまうと難しいのだが。



 その芙蓉の減量を納得いかない目で見ているのが、ダイエットの指南をしているイルだ。

 彼女は冒険者として活動しているため、どうしても筋肉がついてしまう。また、それにより腹回りの筋肉が発達した分、ウェストを細くするのが難しくなっていた。

 そんなイルにしてみれば、みるみるうちに顔は小さく腰回りが細くなっていく芙蓉は裏切り者というか、許容し難い相手に見えてしまう。

 同じどころかそれ以上に苦労しているイルは、そんなに簡単に体重が落ちないというのに、と言う事だ。





「この分だと、武器を持たせてもらえるのはここを去った後になりそうじゃな」

「素振りも体力を使いますからね。その細腕ではまだ早いでしょう」


 芙蓉の腕は、顔や体ほど太くは無い。細いと言うにはやや脂肪が付いているが、筋肉があまり無いので彼女たちの中では細腕としか言えない。

 武器を持ち上げ、構えを維持するところから始めるべきか。それはそれでかなりきついが、素振りをするよりはマシだろう。どこに飛んでいくか分からない。


 イルは本気で芙蓉のダイエットに手を貸している。

 レッドに言われたというのもあるが、彼女自身が芙蓉の事を気に入っているというのもある。その、ダイエットの成果には目をつぶって。

 年の近い女の子同士、貴族の娘と異国のお姫様にとって、特にしがらみが無ければ仲良くするのはそこまで難しくないのである。少なくとも、陰湿ないじめなどはやろうと思っても実行できない立場を理解できているから。どちらがやっても外交問題になりかねないのだ。

 単純に、気が合ったとも言う。



 イルと芙蓉。

 彼女たちは女の子同士という事もあり、変に恋愛フラグを立てることなく交流を深めていく。

 レッドは護衛の男連中と仲良くなるので、とてもバランスが取れていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ