休日③
2話同時投稿です。
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気を失った後の事を、俺は桜花から聞かされた。
犯人は酒に酔った日本人冒険者数名だった。
酒で日本に帰れないストレスが暴発して凶行に至ったらしい。ケミストリーさんたち4人に加え、衛兵の方にも殉職者が出る大騒ぎになってしまった。
犯人は何人かがその場で殺されたが、全員死んだわけではないらしい。まだ生きている奴がいて、その処分も含め、衛兵たちは俺と話がしたいと言っていた。
「犯人は、殺人の現行犯と言う事もあり、明日処刑されます。
マスターは、被害者として、法に則り、犯人の処刑を行う権利が与えられます」
赤く目を腫らし、つっかえながらも桜花が状況を報告する。
ローズマリー、フェンネル、キャラウェイ。
3人が殺されたことに、家族だった桜花も相当ショックを受けている。
彼女の家族は生みの親も含め、これで全員殺されてしまった。その衝撃はきっと俺よりも深いはずだ。
俺は上手く働かない頭で、ぼんやりとそんな事を考えていた。
「権利を、行使しますか?
もしも、処刑を行うようでしたら、今日中に、衛兵の詰め所まで行かねばなりませんが」
「……いく」
そうだ。
3人の、仇を討たねばならない。
俺は義務感に突き動かされ、ふらつきながらも衛兵の詰め所へと向かった。
「まぁ……災難だったな」
「何か飲むか?」
「これが冒険者の倣い、とも言わん。が、お前、大丈夫か?」
衛兵の詰め所で、俺は、よく分からない扱いを受ける。
衛兵の皆さんの顔色も仲間を殺されたことで落ち込み気味だったようだが、それよりも何かに困ったような顔をしていたのだ。
「大丈夫です。それで、明日の話なんですけど」
大丈夫かと聞かれ、大丈夫なわけがない。
ただ、そんな事を相手に行っても無駄だし、いたずらに気を使わせるだけだ。大丈夫と答えるのが普通である。
「ああ……うん、分かった。明日の話だな」
たぶん何も分かっていないか問題の先送りなんだろうけど、衛兵の隊長らしきおっさんはとにかく建設的な話を先にする事にしたらしい。
「聞いたかもしれないが、件の犯罪者は被害者遺族による処刑、『棒打ちの刑』に処せられることになった。今回はお前さんと相方の嬢ちゃん、あとはバッツ、殺された衛兵の親父さんが殴り役になる。殴るための棒はこちらで用意する。
集合時間は明日の昼、飯の時間が終わった頃にここに来てくれ。何ならここに食う物を持ち込んでくれても構わない」
そっか、衛兵さんも殺されたんだし、その遺族にも加害者を殴る権利はあるよな。
「あと、慰謝料って事で奴らの私財を売り払った金、2000Gを今のうちに渡しておく」
隊長さんはそういうと、俺の前に小さな革袋を置いた。
これが、あの3人の命の対価?
俺の中で何かが壊れた気がした。
「他、何か聞きたいことは無いか?」
「いえ、今はありません」
隊長さんは「そうか」と呟くと、もう一つ、俺の前に革袋を置いた。
「これは、殺された3人から回収したコアだ。遺体はこちらで処分したが、これだけは君が持って帰るべきだろう」
言われ、3人の遺体をまったく気にしていなかった事に気が付く。
その事にショックを受けつつも、俺は隊長さんに頭を下げ、お礼を言うと宿に帰った。




