内密の相談
なんか、衛兵だけじゃなくって常勤の兵士までもがレベル上げに注力する事態になった。
それを解せぬとは言わないが、アゾールさんの行動は思ったよりも大きな波紋を広げたようである。
そして俺は呼び出しを喰らった。
「俺、何で呼び出されたんですか?」
いつものようにジャニスの所に呼び出された俺は、出された茶菓子を御茶うけに、コーヒーっぽい飲み物を飲みながら質問をした。
少なくとも、わざわざ呼び出されるようなことをした覚えはない。
レベル上げに勤しむのは問題のある話ではないし、その理由であるヤマト村への不信感はあの時一緒に行った文官さん経由で報告済みである。
よって、それが今更問題になる事はない。
では、アゾールさんに勝った事だろうか?
それもたぶんだけど、無い。
アゾールさんは確かに衛兵としては最強だけど、別にグランフィスト最強じゃない。それはジャンやバランといったトップクラスの連中が呼ばれるだろう。俺はギルド最強じゃないのだ。
東方の商人と会わせてもらうのはもう少し先の話だし、それも違う。
予定が変わったぐらいなら呼びつけなくても手紙1つで済むよな。
だとすると、他にどんな理由があっただろうか?
「東方の商人さんが、レッドさんとの直接交渉を願い出ています。ジョブ解放とは別件で、お願いしたいことがあるそうです。内容は我々にも秘密と言う事で、私にも教えて頂けませんでした。
この件でお会いするかどうか、考えてもらえませんか?」
東方の商人さんからの要請でしたか。それは流石に予測できない。
こうやって会って話をするって事は、それだけ秘密にしたいって事かな。
内容は秘密となると、この場で答えるのは無理だな。判断材料が無い。
せめて一度会って、相手の印象を見て決めようか。その考えに相手が納得すればよし、しないならそれまででも構わない。
果断な奴なら得られる利益の為に引き受ける事を選ぶんだろうけど、俺にその意思は無い。
報酬も何も決まっていない仕事をしようと思うほどギルド運営はカツカツではないし、変にリスクを背負わず地道に成長するのが健全な経営だ。色気を出す理由は無いな。
「領主様からは、ジョブ解放で東方の方と引き合わせてもらう約束になっています。
ですので、その場での印象を以て引き受けるかどうかを決めるとお伝え願えますか?」
「そうですね。それがいいでしょう。
分かりました。先方にはそのように伝えておきます」
領主サイドが信用する商人に対しある意味失礼な提案であったが、全く面識のない相手と取引は出来ない。
ジャニスもそのあたりは分かってくれたようで、変にねじ込もうとすることなく、この話は終わった。
さて、この判断はどう出るかな?