休日①
その日は休みだった。
前日に遅くまで探索をした時は、翌日を休息日と設定したのだ。
普段は日帰りで夕方6時を2回に夕方8時を1回、翌日を休日に。そのあとに夕方6時、夕方8時と続けてまた休みを取るようにしている。
日本の土日の様な連休は無しで、このローテーションでお金を稼ぐようにしている。
もっとも、休みといっても体を休める日という意味が強く、遊ぶための日ではないのだが。
「桜花は良かったのか?」
「はい。たまには3人だけというのも良いのではないでしょうか」
メイドトリオは料理の練習と言う事で、近くの飯屋にバイトをしに行った。
最初の方は桜花も付き合っていたのだが、今日は桜花抜きのメイドトリオだけでバイトしている。
桜花が言うには、「たまには別行動も必要なんですよ」と言う事らしい。
「1人で出歩くのは良くないですけれど、私は出歩く気はありませんから。宿で大人しくしていますので問題ありません。彼女たちは3人一緒ですし、もう馴染みの店の周りだけのお仕事ですから。大丈夫ですよ」
「うーん? 何か、気に掛かるんだけどねぇ」
なお、ホムンクルスの桜花とメイドサーヴァントであるローズマリーたちが単独行動を取る事は絶対にない。
なぜなら、『生産活動推進部』が彼女らを狙う危険性があったからだ。
本来メイドサーヴァントとホムンクルスは希少ではなかったが、需要が一気に増大したため素材枯渇状態になっている。
普通の者ならそこで諦めるかダンジョンでの素材集めに精を出すかなのだが、他人のホムンクルスなどを殺してでも素材を手に入れようとする者まで出ているという。
アイ○ソードのように「ころしてうばいとる」を選ぶド阿呆がいるとは信じたくなかったが、人形遣いのケミストリー氏が真剣な顔で「独り歩き駄目、絶対」と念をを押す程度に状況は悪いらしい。
今日は何か胸騒ぎがするので、3人がバイトしている飯屋で昼飯を食べる事にした。
「マスター? いらっしゃいませ」
バイト先の飯屋『最後の晩餐』は大盛況だった。
メイドサーヴァントが欲しくても手に入れられなかった人形遣いをはじめ、単純にこの店の飯が好きな者、可愛い女の子を愛でたい者などが集まって行列ができるほどであった。
列に並んで店に入ると、接客担当のフェンネルとローズマリーが出迎えてくれた。
キャラウェイは調理担当の為、店の調理スペースにいるのだろうな。
3人とも、よく働いているようだ。
「相席でよろしければ、すぐに案内できます」
「レッド君! こっちに来たまえ!」
知り合いを増やす意味でも相席の方が良かろうと、フェンネルに連れられて行ったテーブルにはケミストリーさんがいた。にこやかに手を振り、椅子を引いてくれた。
……彼がこの店の常連なのは、桜花やメイドトリオがバイトしている時には必ず食べに来ている事は知っていたが、このタイミングで顔を会わせるとは思っていなかったよ。
俺と桜花は苦笑いで椅子に座る。
ケミストリーさんが桜花たち4人に嫌われている事は知っていたが、それをどうにかする為に少しでも接点を持とうと彼なりに努力しているらしい。
人、それをストーカーと言うが、接点ゼロではマイナスをプラスにする事も難しいので、努力は評価すべきなんだろうか?
「いやー、メイドさんの料理がだんだん美味しくなっていくのを見守るのは、とても良いものだね!」
「すみません。言っている事はまともだと思いますが、あなたが言うと何か犯罪臭がします」
「何故だ!?」
この店、ランチタイムは昼定食一択である。ローズマリーが持ってくるまでの間にケミストリーさんとお喋りをするが、どうにも演技臭い言い回しが気になるからか、ボケに対するツッコミのような発言をしてしまう。
悪い人ではないと、知っているんだけどね?
桜花は口をほぼ開かなかったので飯が来るまでは男2人でお喋りをして、飯を食べ終えたらフェンネルとローズマリーに一言声をかけてから帰った。
飯は美味かったけど……やはり、不安は払しょくできなかった。