携行食②
「あ、ニンジン。こっちもニンジン。そっちにもニンジン。ニンジン祭か、ここは?」
「季節の物が並んでいるだけです、旦那様」
「分かっていたよ?」
イルと2人きりで市場調査。いわゆるデートのようなものである。
婚約者となった理由は横に置き、イリスイアリスの事を基本的に放置してばかりだったので、たまにはこんな理由でもつけてお出かけしてみようという気になったのだ。
留守番になった桜花は落ち込んでいたが、こういった時に桜花を連れ歩くのはマナー違反のような気がしたので無理を通すことにしたのだ。
なお、貴族の場合は従者の一人か二人に加えて護衛を1ダースは用意するのが普通なので、二人っきりと言う事は無い。俺は一般人枠なのでそんな事をしないだけである。
市場に目をやれば、代り映えの無い商品ばかりが並ぶこととなる。
食料品関係はどこも同じものばかりを取り扱い、変わり種とか真新しい物などは無い。流通が貧弱なファンタジー世界に豊富な品ぞろえを求める方が無茶なのだ。はっきり言って、出てきた意味がほとんどない。
流通が貧弱と言う事は、グランフィストの周辺でも、本当に1日で行き来できる村の野菜までしか並ばないと言う事だ。そして近場で育てるものとなると、どうしても似たようなものばかりになる。
付け加えれば、温室なども無いので季節に沿ったものしか用意できないというのもあるだろう。
大都市グランフィストでも品数が豊富とは言えないのである。
それでも存在する収穫は、季節の物を確認できたことだろうか。
流通と生産が発達した日本では季節の物など言葉遊びでしかない事が多い。さすがに魚は旬があるけど、野菜に関しては温室栽培や冷凍保存技術のおかげで大概の物は年がら年中手に入るようになっている。季節感など全くない。
正直、鈍い貧乏舌の俺には新米と古米の区別がつかない事の方が多かった。濃い味付けのおかずばかり好んで食べていたのも味が気にならない理由の一つだけど。
旬の食材がベストとか、昔は考えもしなかったんだよ。某メーカーの果物ゼリーとか大好きだったし。そこに季節感は無い。
昔の俺の食生活は横に置き、今の俺の食生活だってなかなか酷いかもしれない。
飽きるという事をしない性格のせいか、同じメニューがどれだけ続いても気にしていなかった。味付けが単調でも調味料が少ないだろう事を理由に、あまり気にしてこなかった。
味噌? 醤油? あれば嬉しいけど、絶対にないと困るとか、これまでそんな事は言わなかった。
そこそこ早い段階で米が手に入ったこともあったけど、値段を考えると毎日食べたいとか言い出すほどでもなかった。
不味い飯を好んで食う事はなかったが、そこまで気にすることも無かったのだ。
ぶっちゃけ、代り映えの無いコンビニ飯が続いてもそこまで問題とは思わなかったクチだ。
かつての恵まれていた、それでいてわりと酷い食生活を思い出し、ちょっとショックを受けた。
昔の事は考えないようにするとして、今はそれを笑い話にしてしまおう。
そう思って親密度稼ぎにイルに昔話をしてみたら、わりと泣きそうな目で同情された。
解せぬ。




