携行食①
冒険用の携行食というと、最初に思い出すのは石のように堅いパンと、干し肉である。
大体の冒険者はこの二つを持っていく。
食べ方としては、干し肉をお湯でほぐし、そのままスープにする。
あとはパンをスープに浸しながら食べるというやり方だ。
パンを食べ終わってから、パンが溶けてとろみのついたスープを飲むのが一般的で、他に具材などは無い。
俺が好きなスープと言えばコーンポタージュなのだが、この世界は中世ヨーロッパをリスペクトしているらしく、トウモロコシもジャガイモも無い。
中世ヨーロッパでは芋類がほとんど無かったって話なんだよね。ゲームのリプレイでもジャガイモの類は無いってのがたまにネタとして扱われていたから覚えている。
ただ、そうなると、俺に出来そうな料理チートはほとんど無かったりする。
油が貴重なので揚げ物は日常的にできるものではないし、ヤマト村の連中が既に広めているので俺が何か言わなくても街の料理人たちがこっち流の料理でアレンジしたりしている。
野菜の素揚げが多いのには閉口するけどね。砂糖をまぶさない揚げパンはもうあったよ。
揚げ物で天下を取るには、俺の料理経験値が足りない。街の人とほぼ同じである。普段は店屋物かスーパーの半額惣菜で済ませていたので、自分で揚げ物をする機会などほぼ無かったのだ。
一人暮らしの男所帯なら、だいたいそんなものである。
では、クッキーの類はどうだろうか?
なにげに、もうあったりする。
単純に、使われている蜂蜜が高級なので糧食に向かないという話だ。
味が良くてもコスパを忘れるようでは駄目なのだ。この辺りはお国柄である。なんともならない。
そうなるとクリアすべき問題は2点か。
携行性に優れている事。
当たり前だな。
この辺りで安価に手に入る食材である事。
特に問題になりそうなのはこっちか?
高い物はいくつも知っているけど、その辺は使いにくい。使えそうな物の中で何が安いのかも分かっていないから、まずは市場調査をしようか。
レベル上げの合間にでも。
俺一人では味が分からない者もあるかもしれないから、料理の得意なイルに付き添いをお願いしよう。
本業はレベル上げ――じゃなかった、ダンジョン関連依頼なんだよ。畜生。
4層はあんまり行きたくないんだけどね。
はぁ。
2層で小遣い稼ぎをする程度で満足しておきたかったのに、なんでこんな事になったんだろ?
レベル上げは嫌いじゃないけど、「やろう」から「やらなきゃいけない」になったせいか、本当にテンションが下がる。
やっぱり、趣味は仕事にするもんじゃないね。