苦情②
「ですから、定期講習以外で弾蔵さんの貸し出しは認められません」
「技術の秘匿をするのですか!?」
「ですから、個別対応では効率が悪いと言っています。弾蔵さんの負担も考えると、週に2回の講習が限界なんですよ」
「本人に直接確認できず、このまま引き下がれるとでも思うのですか!!」
「勘違いしないでください。私は、「引き下がってください」とお願いなどしていません。「引き下がれ」と命令しています」
最近になって、外部から弾蔵を講師として呼ぶ声が上がっている。今度は街中にいくつもある錬金術師ギルドの一つの代表が押し掛けてきた。
無茶を言うなと言いたい。いや、直接言ってるか。
現在、弾蔵はグランフィストで唯一の『山法師』だ。東方からの商人・客人は他にもいるけど、『山法師』は彼1人なのだ。
よって、講師役の負担が弾蔵独りにかかってしまうのは避けられない。
弾蔵のコンディションその他を考え、7日中2日だけ、外部向けの講師を依頼している。
実演から説明まで、約半日。一度に相手するのは20人となかなか多いので、その負担はとても大きい。なお、これ以上人数を増やしても弾蔵の説明が追いつかないし、その20人でも多すぎではないかという声が上がっていることも付け加えておく。
グランフィストの錬金術師は100人や200人じゃすまないので、『秘薬丸』のレシピを書面に起こして先行公開したが、それでも講演は3ヶ月先まで予約待ちである。
そのため、待ち切れない奴がこうやって押しかけてくるのだ。
当たり前だが、弾蔵は俺と同じオンリーワンの人材だ。
グランフィストにとって重要人物なのである。
当然、彼が単独で動くことは許可できないし、もし動くとなれば護衛が必要になる。ちょっと行ってちょっと何かするという訳にはいかない。護衛を動かすのだってタダではないのだ。
そんな重要人物をダンジョンに連れて行ったのかと言われそうだが、彼が重要人物になったのはダンジョンから戻ってきた後の話である。時系列的に考えて、ブートキャンプには何の問題もない。
とにかく、どこかの錬金術師のギルドのために、わざわざ派遣するなどありえない話だ。
そうなると今度は『北極星』の建屋の中で講師をすればいいんじゃないかと言われそうだが、生産用の工房はすでに手一杯だ。現在はギルドのポーション関係や秘薬丸の生産で手狭になっているため、余所から人を招き、講演をするスペースなど無い。
そういう意味ではあと一月ほど待ってもらえればギルド内で講演を行う事も出来るようになる訳だが、そんな事をいちいち教える義理は無い。
もしやるとしたら、事前に公示して、平等に公平に、グランフィストにとって効率が良くなるように計画を立てることになる。個別対応は考えていない。
「講演・講師についてはこちらでは新しく人を手配している最中です。あちらの都合もありますし、人を派遣していただけるかも未知数ですが、こうやって前例がある以上は不可能な話でもないでしょう。
もし待ち切れないなら、貴方達が自力で東方から人を呼んでください。我々がそれを止める事はありませんし、領主様も同じでしょう」
「それができればこうしてここにきていない……っ!」
「貴方達にそれが出来ないように、我々にもできないことがある。それを理解していただけませんか?」
「ふざけるな! そちらはただ、手を抜いているだけだろうが! グランフィストの為にも協力しろ!!」
俺としては出来るだけ穏便に話し合いで済ませたいし、面倒事を増やしたくもない。
だから言葉で終わってくれればいいのだが、この手合いは自分の利益を集団の利益にすり替え、自分が正しいと盲信して一歩も引かない。
なので、暴力で応じることになる。
「じゃ、アゾールさん。あとは任せます」
「応。任せておけ」
俺はアゾールさんを呼んでみた。
グランフィストのために治安維持をする衛兵さんを、だ。
「離せ! 衛兵が一個人、一組織のために横暴を許すというのか! 私は! グランフィストのために!!」
「そのグランフィストの法を犯し治安を乱している以上、お前はただの犯罪者だよ」
「クソがぁっ! この、ぐほっ!?」
どっかの代表は喚き散らしながら連れ去られていったが、あまりに煩いようなのでアゾールさんがボディに一撃。吐かせる事無く悶絶して喋れなくする熟練の技を見ることになった。
衛兵は治安維持の役割を負う以上、犯罪者の戯言を封じる権利を持っている。この世界ならあれぐらいは合法である。そういう意味では日本の犯罪者への甘さは異常だと思うよ。こっちの方が理性的だ。
人のふり見て我が身を、とも言うので、俺は周囲の声をちゃんと聞ける人間でありたいよ。
ああいう大人にはなりたくないね。
俺は“元”大人だけど。