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北極星の竜召喚士  作者: 猫の人
ポーション問題
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苦情①

 あれやこれやと手を出すと、際限がない。

 だから予算や時間、能力を理由に損切りをする、何かしらの不利益を受け入れるのは普通の事だ。

 問題が発生したからといってすべて解決するのは「ただのバカ」でしかないし、そこに存在するのは強者の理論、偽善だけだろう。誰かの為ではなく、自分の為にやりたい事をやりたいようにやる暴君としか言えない。


 何が言いたいのかというと、俺は俺がやったことに対し責任を負い(・・)はするが、責任を取る(・・)わけではない、ただそれだけである。





 最初にあったのは、冒険者ギルドへの苦情であった。

 ギルドは街の近くで薬草採取を行った。で、それは領主から許可を得て行った事だが、普段はそこを縄張りにしている狩人の男が「ギルドの責任者を出せ」と押しかけてきたのだ。


「アンタたちに荒らされたせいで、薬草の群生地が駄目になっただろうが!」

「だから、ちゃんと貴方達も同行して、こちらのやり方を見届けさせましたよね。その時には何も文句を言わず、今更になって言われても困ります。

 こちらはちゃんと説明しましたよね。何か問題があった場合はその場で指摘し、街に戻ってからその件について話し合いましょう。もしその場で言いにくいならあとから報告する形でも構いません。出来るだけ速やかに話を通してほしいと。

 数日経ってから言われても、こちらに言える事はありませんし、何もできませんよ。

 もちろん、この件は領主様から許可を頂いた範囲です。法の名の下、我々による瑕疵(かし)は無いと断言しましょう」


 瑕疵とは、詐欺や脅迫などで本人の意思を捻じ曲げて行われたことを言う。

 つまり、冒険者ギルドの人間が彼らを脅してしばらくの間何も言えないようにしたわけじゃないよ、と言っているのだ。


 と言うか、瑕疵があるなら、そんな、脅された奴がこんなふうに噛み付いてくること自体がありえない事なんだけどな。



 この案件は、外に採取に言った連中と現地住人との間で発生した揉め事だ。


 俺たちが外に行って既知の群生地で一緒に薬草を採取したとして、半ば素人集団の冒険者では現地のやり方を無視しかねない懸念があった。短期的に利益があるやり方では、長期的利益が見込めない事もある。『治癒の薬』の供給は長期的に考える必要があったので、そういった手法を取った。

 だからその現場の人に採取方法に問題が無かったかを判断してもらったのだが、その同行してもらった奴の一人がこうやって騒ぎ立てている。


 いわく、「あの場では怖くて言えなかったが、しばらくしてまた群生地に向かい、荒らされ尽くして二度と回復しないであろう群生地を見て、ようやく苦情を言おうという気になった」という事らしい。



「だけど! 俺たちにも生活があるし、あの群生地を荒らしたお前らが何の責任も負わないのはおかしいだろうが!」

「それを言う権利を行使しなかった方に後になって文句を言われても困りますね。衛兵を呼ぶ前にお引き取りを」

「うるせぇ! 人情ってもんがねぇのか、このクソガキ!!」


 俺としては、もう知るかよと言いたい話だ。

 ちゃんとこちらは冒険者に言い聞かせる権限を与えたし、相手もそれを了承していた。だから既定のやり方をしてもらえればこちらもそのように対処するし、謝罪も補償もする用意があった。

 権利を行使しなかったのは、相手の落ち度だ。


 ただ、相手にしてみれば、一緒に行った相手も同じ人間だと思っていたら、高レベルが祟り同じ人間とは思えない強さの化け物にしか見えず、何も言えなくなったのだと。

 言葉にしてみるとそこそこ説得力があるように見えるが、やっぱり、こうやって噛み付いてくる以上は建前で喋っているようにしか見えない。

 そもそも、本当に冒険者たちのやった採取方法に問題があったかすら怪しいと俺は考えているよ。


 大体だ、高レベル者と低レベル者の能力値というのはそこまで隔絶したものではない。

 レベル3、キャラメイク後の能力値平均が11ぐらいで、俺ぐらいのレベルキャラだと能力値平均が18ぐらいになる。数字だけ見れば倍近く見えるけど、実際はダイスによる加算があるため、4割増し程度にしかならない。それぐらいなら十分常識の範疇だ。プロスポーツ選手と一般人の能力差なんてもっとあってもおかしくないのに。

 見た目で分かりやすく考えると、相撲取りやプロレスラー相手に苦情を言う様なものだから直接は言いにくいだろうが、そこまで恐がることじゃない。道中に出るモンスターの対処の方がよほど恐いだろう。



 もしかしたら、12歳児の、俺の外見が彼を調子に乗せているのかもしれない。恐怖心が後押しして、強気に出させているだけかもしれない。

 被害者、という事で見逃すべきかもしれないけど。


 とりあえず、こんな時、クレーマーに妥協してはいけない。強気の姿勢で跳ね返すべきだ。


「≪召喚≫ティナ」

「うおおおぉぉぉっ!?」

「二度目までは言いましょう。衛兵を呼ぶ前にお引き取りを」


 目の前にいるのは、一応だけどギルドでも上位(の下の方)に入る冒険者()である。

 舐めてかかれる相手じゃないと、視覚で分からせてみた。

 効果は抜群だ。


「ひぃぃぃ!!」


 レベルアップのおかげで、ティナもそこそこ大きくなっている。大型犬と比べても一回りも二回りも大きく、動物園のライオンよりも迫力がある。

 男は一目散に逃げ出していった。



 余計な仕事になるが、この顛末を衛兵経由で領主に報告するのと、酒場を使って一般に流布するのも忘れない。風評被害対策だ。


 もうちょっと、楽がしたい。

 最近は忙しいので、心からそう思うようになっていた。

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