増産計画の中間報告・戦争終結?
『治癒の薬』や『病気用ポーション』とは違う材料で作る『秘薬丸』。
目の前で作ってもらえれば、回復アイテムという共通項を持つ俺たち錬金術師でもなんとか作れる。有償でレシピを領主に売りつけ、グランフィスト全域での生産を可能にする。
そうすることで『病気用ポーション』の素材を確保し、HP回復アイテムも用意できる環境を作る。
すぐに回復が必要な場所って結構あるからね。期限切れも大きな問題にはならない。消費する回復アイテムの必要数なんてそこまで大きく変動しないので、どの程度なら『秘薬丸』を無駄にしないか計算するのは難しくないのだ。
そうやって自分たちが使うであろう回復アイテムを『秘薬丸』にすることで、各地で必要な『病気用ポーション』の在庫を確保することに成功する。
なんだかんだ言って、生産する時の大きな問題点といえば材料の確保なのだ。
日本で働いていた時も、部品の納入が遅れて何度酷い目にあった事か。調達にもっと早く動けと電話した記憶がよみがえる。あいつら、こっちが連絡するまで納期遅れを無視してたんだよな。今更ながら怒りがこみ上げてくる。
嫌な昔の話は記憶から消し、増産開始から1月経過しての現状把握。
ギルド内の『治癒の薬』『病気用ポーション』の在庫数はそれぞれ2000と300まで増やした。先月と比較し、+2090である。
30日なら+3000を目指せたのではと思われるだろうが、そこは『秘薬丸』を作る練習に時間を取られたからで、スキルの補佐が無いため、失敗する確率は10%ぐらいと未だに高い。もうしばらくしたら追加生産数を+100で安定させることができるだろうが、予定よりも時間がかかりそうだ。
俺たちよりもスタートダッシュで遅れている他の錬金術師だと、『秘薬丸』はまだ練習段階で、実用に耐えうるものが安定して作れない。
その結果、今度は『秘薬丸』の材料が足りなくなっている。それは元から予想された事なので、採取担当には頑張ってもらいたいものだ。
それと、今更ではあるが、赤色ガラスも安定して作れるようになっていた。合金で何とかなるらしい。細かい配合に興味は無いので結果だけありがたく受け取っておくことにした。
そうやって俺たちがいろいろやっている間に戦争が終結したようだ。
水の都の日本人は全面降伏。指導者クラスはさすがに斬首だが、そうでない連中は今は見逃すようだ。
たぶん、民衆の不満をぶつける対象にするつもりなのだろう。水の都の現地住人にしてみれば日本人こそ戦犯であり、自分たちは巻き込まれただけの被害者って認識のはずだし。
俺に言わせれば、どっちもどっちなんだけどな。住人が彼らを火属性魔法の使い手だと持て囃した結果だろうに。
住人だってこれから相応の苦労はするんだろうから、俺が責めるのは筋違いなんだけどね。あんまり残った日本人を責めないでほしいものだ。俺にまで飛び火するじゃないか。
火の都の日本人は砂漠の奥、隣の国に逃げる事にしたらしい。王国にとってはこっちの方が厄介だろう。
もともと水属性魔法で飲み水を確保できる連中だ。普通の連中では生きていけない環境でも、あいつらなら生きていけるはずなのだ。隣国もきっと歓迎するだろう。
今後は潜在的な敵国ではなく、明確に敵対した相手として隣国を危険視することになりそうだ。
さっさと潰しに行きたいだろうけど、今はそんな戦力のねん出が出来ないからな。大地の都の住人と派遣した王国軍が全滅した影響が大きすぎるのだ。
この立て直しには数年どころか数十年の時間が必要になるだろう。
あと、大地の都の跡地だが、そろそろ安全宣言を出すようである。
坑道のカナリヤじゃないけど、≪病気耐性≫スキルを持っていない一般人で土地の状態を調べた結果、問題が起きないことが確認された。
これが日本ならもっと細かく検査するのかもしれないが、王国はそう言う所はわりとザルで大雑把である。全ての水源が無事であると結論を出し、跡地に移民を募っていると各地に通達を出している。
田舎だと農家に次男三男で冷や飯食いの連中がくすぶっている事が多いので、そいつらを使って周辺の農地を再整備するのが目的だ。
これを機に商売を考える者も国内には大勢いるし、しばらくは復興事業で好景気になるかもしれない。
そこら辺の経済動向って、俺もよく分からないんだよ。
まぁ、戦争関係の好景気よりは良い事だから気にしなくてもいいんだろうけどさ、今度は鉄がたくさん欲しいと御上が言い出しているのでかなり面倒だ。
鉄なんてダンジョンではなかなか採れない素材なのに、無茶を言わないでほしいね。
もうしばらくしたら回復アイテムの在庫も十分な数になるし、そしたら俺も本格的にダンジョンに挑めるようになる。
アイテム作りはそんなに儲からないから、そろそろがっつりと稼ぎたいよね。




