将来のビジョン
それから2週間でもう1点の経験値を入手し、新人のマリー以外は合計4レベルになった。
成長の恩恵は嬉しいが、パーティの合計レベル的にそれ以上の経験値入手が難しくなったので、雑魚戦での成長はもう無理という結論になった。
しかし成長した分だけ探索や採取による収入は増えていて、地下迷宮だけで十分に生きていけるだけの稼ぎが手に入っている。
「わざわざリスクを背負うのも馬鹿らしい、か」
「ダンジョンの攻略はされないのですか?」
「報酬に見合う危険があるなら、挑戦しないのも正しい選択だと思うんだよ」
宿に戻り、5人で今後の方針を考えようと話し合いの場を設けてみた。ティナとマリーは不参加だ。まだ共通語を喋れないし。
俺は現在の稼ぎから、危険なダンジョンの奥を目指す必要を感じなくなった。十分な収入があり、日々の細かい不満はあるけどそんな事はどんな生活をしていても出て来るもので、正直、このままでいいじゃないかと思うようになっていた。
桜花たちは俺の方針に疑問を感じるものの、彼女らにしてもダンジョンクリアのメリットが皆無であるため、俺に反対することは無い。
1日の稼ぎは300~500Gで安定している。
1日の支出は宿代60Gと諸経費100Gで、贅沢をしなければ週休2日も確保できる。それでも貯金ができる。
それに最初の方にあったような『倉庫』エリアを見付ければ大きな臨時収入が期待できる。
だからいずれ宿から自宅購入という夢があるので、それを目指すだけでいいんじゃないかって考えているわけだ。
冒険者にはなったが、危険を冒すのは本意ではないのだ。
「まずは3万G貯めて、家を買って。老後の貯蓄も必要だから、その分のお金も貯めて。
目標は家を買った後に200万Gかな。それだけ稼いだら冒険者を引退しよう」
「家の規模は……年の税金5000Gぐらいの家ですか。食費や諸経費で年間15000Gと仮定して2万Gぐらい、50年分の生活費を稼いでから引退ですか?」
「途中、予測不可能な出費もあるだろうから40年分を想定したつもりだよ。稼ぐ期間は運が良くて20年未満、本当に運が悪くても30年を見込めば何とかなると思う」
家の税金や生活費を考えると、それだけあれば老後も安心できるはずだ。
錬金術でチマチマ稼げるようになっていればベストだけど、さすがに1レベル錬金術師が安定収入は難しいだろうから、目標は少々多めに設定してみた。
臨時収入を計算に入れるのはあんまり良くないけど、それを抜きにしても40歳まで頑張ればいいだけだから、日本の定年よりも早く引退出来るはずだ。
問題はダンジョンがずっと稼げる場であるかどうかなんだけど、ダンジョンで稼げなくなったらその時はその時に考えるとしよう。
この時、俺はそんな甘い事を考えていた。




