問題は次から次へと
ゲームシステム、万歳。
この世界はチートに満ちていると思う。
日本にいた頃の俺は魔法や錬金術なんて全く知らないただの会社員だったが、この世界に来てから≪召喚術≫や≪錬金術≫をいとも容易く使いこなすことができた。
全てはゲームシステムのフォローがあってのことである。
ジョブを得て、スキルを学び、これを使いこなす。
錬金術などは全く関係ない、ただの戦闘行為でマジックアイテムのレシピを学べるのだから、これをチートと言わず、何をチートというのだろうか?
ある意味、秘技などのような技術の秘匿が出来ない世界である。教師も何もいらないので、失伝の心配すら無い。
まともに勉強して何か魔法を覚えようとか、そんな事を考える奴はどれぐらいいるんだろうか?
「『秘薬丸』……。拙者、このような物を作れるようになるとは夢にも思わなかったですぞ」
弾蔵は自分で作り上げた回復アイテム『秘薬丸』を手に、感動に打ち震えていた。
『秘薬丸』はそこそこ効果の強い回復アイテムであり、俺の作る『大治癒の薬』並の回復効果がある。さすがに桜花の作る『高品質な大治癒の薬』には劣るが、それでもそこいらに出回る『治癒の薬』よりも効果は高い。
つまり、売れる商品という訳だ。
あちらの薬剤事情がどんなものかは知らないが、向こうでもいい値で売れるだろう。
弾蔵がいきなり『秘薬丸』を作れるようになったのは、もちろんレベルを上げてジョブチェンジし、薬品関係の専門家になったからだ。
ダンジョンに連れ込み丸5日間、徹底的にブートキャンプで苛め抜いて、生産ジョブのレベルを3まで上げたのだ。
その結果が『秘薬丸』である。
モンスターを倒すだけで回復アイテムのレシピを覚えるというのも不思議な話だが、利用できるのだから利用させてもらおう。
一応はこの世界の法則に則った行為なので、チートだけどチートではないのだし。
秘薬丸の効果は大治癒の薬並みに高いのだが、丸薬関係特有の問題は解決していない。
保存期間の問題は、何一つ解決していない。いまだに7日しか持たないのである。
「専用のスキルを覚えれば、使用期限の延長が出来ますな。回復効果を高めるためのスキルもあるでござるが、如何しますかな?」
「――使用期限よりも、効果アップの方が美味しいかな? 1週間あれば使う機会が無いって事も無いだろうし」
効果時間も生産ジョブのレベルを上げれば、スキルによる解決が可能になる。
だが、それよりも高品質にする方が美味しいかな。
「それよりも、軟膏タイプは作れそう?」
「ふーむ。まだレベルが足りなさそうですなぁ。素材の方は脂を混ぜるだけでいけそうな気がしますが、どの脂がいいかはやってみないと何とも言えませんぞ」
丸薬のもう一つの問題は、飲み込んで使うって事だ。気絶して飲み込む力がない奴相手には使えないし、苦みが強く味が悪いので流し込む水が無いと辛い。
なので塗り薬にしてその問題を解決してほしかったのだが、これはまだ駄目っぽい。弾蔵は難しい顔をして考え込んでしまった。
「それよりも、拙者の愛刀が危険領域です。替わりの刀が無いと、拙者の戦力は半減どころか激減しますぞ」
「……こっちには『刀匠』がいないから、もう少し待ってほしい。ちゃんと経費として買うからさ」
「お願いしますぞ」
ブートキャンプのおかげでレベルアップした弾蔵であったが、その激闘の果てに彼の刀は耐久度がかなり削られており、危険領域に突入してしまった。
刀は東方限定武器であり、西洋風のグランフィストでは取り扱っている武器屋が無い。試しに数軒の鍛冶師に依頼してみたが、出来るのは鈍ばかりである。弾蔵曰く「刀の形をした鉄の棒切れ」でしかない。
イーリスの親父の取引先の工房も俺の中途半端な知識を基に挑戦してみたが、全く駄目だった。剣とは全く違う思想で作られているのでしょうがない。
問題を解決するために新しい問題が次から次へと湧いて出る。
まぁ、世の中そういうものと諦めるしかないんだけどな。




