東方の薬剤仕様
「拙者の薬は、適当に七つの草を使う物ですぞ。同じものを使おうが同じ効果になる事が無く、毎回、賭けですなぁ」
「使えねー。安定供給できないんじゃ、何の意味も無いよ」
「何度も使えば≪鑑定≫スキルに登録されるから、数を揃え、効果を確かめ。あとは分別して取り置けばいいですぞ」
「数撃ちゃ中るの精神だな……。いや、材料が何でもいいならこの方が効率が良いか? 変な効果の丸薬でも使い道があれば、売ってもいいし」
「ちなみに消費期限は7日程度ですな」
「やっぱり使えない……」
どうでもいい話ではあるが、この世界には人間限定の世界共通語のような物があり、後は国ごとに方言が存在するだけである。人間同士なら≪共通語≫スキル1つで対応可能だ。
言葉が通じるのは都合がいいことだけど、異世界文字は存在せずに日本語で会話し、読み書きを行う。
翻訳などはエルフなど使う妖精語などの別種族の言葉に対して行うのが普通である。おかげで人間国家相手だと異国情緒があまりない変な所にスキルポイントを割り振りたくないから都合はいいけどね。
この人、名前を弾蔵というのだが、喋りは東方訛りがある。
こうやって会話をしていると、弾蔵の喋りは俺の知ってるサブカルのイメージにある日本人像に近いと思うのだが、それって俺が勝手に頭の中で翻訳しているような気がしてきた。
スキルなんてものに頼って意思疎通をしているんだから、そのスキル補正と言うか、俺の耳に聞こえる言葉も本当は別の言葉なんじゃないかと思ってしまう。
実際問題として、ティナやマリー達もスキルで喋れるようになったら、俺の中にある彼女らへのイメージ通りの喋りだったし。
レベルが低いうちは片言で、≪共通語≫の高くなってもパピーだからか舌っ足らずな喋りなんだよな。
で、東方の薬作りだけど、低レベルの内は作れる物が安定しないらしい。
材料は楽に調達できるけど、序盤は使える薬が出来る事の方が稀なようだ。劣化回復丸薬なんて初めて聞いたよ。使用期間も短いから市場にも出回らないし。話にならない。
そういった仕様はレベルさえ上げれば問題ないから気にはならない。
弾蔵は錬金――じゃなかった、生産系ジョブ『山人』のレベルをあまり上げていないからしょうがないね。そもそも、ジョブ解放後で高レベルだったら俺の所に来てくれることも無かっただろうし。
問題は、その仕様を俺が知らなかった事だ。
俺は記憶力にそこまで自信のあるタイプではないが、ここまで特徴的な仕様を覚えていないというほど耄碌していない。覚えているうちにと書面に書きだしているので尚更だ。
つまり、東方は俺の知る「七鍵世界TRPG」とは別のシステムで動いている。
今の所は直接的な影響はないだろう。俺は東方に行こうと思っていないから。
東方とは距離があるので戦争もできないから、悪い意味で関わることも無い。精々が相手の商売で関わる程度だ。
俺とは無関係なはずである。
だから大事なのは、丸薬作りがどうなるかだけ。
固形の回復アイテムが作れるようになれば出来る事も広がると思う。丸薬や錠剤は戦闘後の回復専門でも、有ればそれだけ選択肢が広がるし、荷物を減らせる。ガラス瓶のように簡単に壊れないって言うのも高い評価点だ。
俺の欲しいレシピを、単純に弾蔵が知らないだけかもしれない。
そこはもうちょっと頑張ってから考えるかな?
やることなす事、手早く終わるとは限らない訳だし。




