増産計画 その3
ポーション量産を決めてから、いくつか外に頼んでいる事がある。
「赤だけ、上手くできなかったみたいですね」
「じゃ、他は大丈夫だったんですか?」
「ええ。緑と青、黄色に黒は言われた数が揃っています」
「鉄、銅、錫。木炭に塩、マグネシウムで駄目だとなると……合金系にするかな?」
「ははは。まぁ、上手くいけば儲けもの、ですからね。
こちらとしても色取り取りなガラスは有用ですでの、需要があります。引き続きの研究費用も前回の取り決め通りで構いませんよ。
もちろん、製造権の取り決めも含めて、ですが」
ポーションの生産時期を分かりやすくするために、ポーションを入れるガラス瓶に色を付けているのだ。
瓶そのものは無色透明の――と言うわりにはやや濁っている――ものを使っているが、蓋の部分だけ色を変えておくのだ。そうすることでいつ作られた物かが一目で分かるという寸法である。
言ってしまえば、学校の制服についている徽章で学年を表すようなものである。
その為には安定して同じ色が付いたガラスを安定して作ってもらう必要があったので、ガラス工に研究費用を渡して試作をお願いしたのだ。
色ガラスというのは需要があるけど、その研究には相応の費用が発生する。一介のガラス工にそんな費用は出せないし、試作する時間も確保できない。
たとえ売れると分っていても、どの程度の費用が発生してどの程度の時間がかかるのか読み切れなければ、そんなものだ。
試作初期は、色はともかくとにかくよく割れるガラスばかりだったため、時間もお金もかなり無駄にした事だけ付け加えておこう。
上手くいったと思って、もう一度同じ配合で作ったのになぜか割れるって事もあったんだよなぁ……。製作条件の再現がここまで難しいとは思わなかったよ。
現在は透明を含めて7色ほど安定して作れるようになっている。
7色あれば治癒の薬に6色、病気用に1色を使う事ができる。が、1色500だと1セット足りないので、出来ればもう一色欲しいんだよなぁ。
まぁ、すぐに必要になるわけじゃないから、もう少し時間をかけてもらっても大丈夫だけど。
最悪、間に合わなくても飾り紐を付けるだけだからなぁ。
半分以上、ただの趣味でやらせている面もある。
色ガラスは科学的思考方法の確立と、芸術・文化的な成長を願っての支援である。
たまには戦争と、戦闘と離れたところで生きてみたいのだよ。
もう一つの外への依頼は、こちらが治癒の薬や病気用ポーションを量産している事に、他意が無い事の周知である。
変な話でも何でもなく、誰かが何かをすると、そこに商機を見出す連中が湧いて出るのだ。
治癒の薬などの買い占めや、それらが品薄になったのではないかと一儲けを企む連中が現れる事を俺は懸念している。そしてそれが変に波及するかもしれないと考えている。……オイルショックで、なんでトイレットペーパーを買い占めるんだろうね?
そんな事で必要な場所に普段の値段で物が売られないとなると、その恨みの矛先がこちらに向きかねない。
だから領主経由で物価の統制を強化する方向で動いてもらう。
民主主義の国ならともかく、封建制度のお国なら領主の命令で値上げ禁止をするのは不可能ではない。さすがに何度も出来る事では無いけど、戦後の物資・物価統制はそこまで変な話でもないのでお願いできた。
死の商人、嫌いです。
朝鮮戦争で立ち直った日本の生まれだけど、それはそれ。これはこれ。
貧乏人の僻みかもしれないけど、人の足元を見るような商売は見ていて気分が良くないんだよ。




