増産計画 その2
当たり前の話が一つある。
治癒の薬を作るには、材料が要る。
要するに、だ。今回の増産計画でババを引くのは作る側ではなく、材料集めをする連中という事だ。
まず、普段の生産量を維持するのに使う分は畑があるので問題ない。
だが、増産分は外で採取しないといけない。
グランフィスト近郊の薬草採取場は、そこを縄張りにしている狩人さんが採取をする為の場所だ。俺達冒険者には、基本、使用禁止令が出ている。
今回は特例と言う事である程度の採取許可は出ているが、俺の考える増産にはとても追いつかず、より遠くまで人を出す必要があった。
備蓄を増やすのに皆の許可を得る必要があったのは、それが理由である。
付け加えると、薬草採取だけでは支出に見合わぬ安い給金になってしまうので、ギルドとしてある程度の保障をする必要があった。
それでもみんなが付いて来てくれるのは、戦争の影響がそれだけ強かったからだ。病気用ポーションなんてほとんど出番が無いものがたくさん必要だなんて考えても見なかったからね。死者の数も含め、インパクトがあったのだろう。
「マスター、病気用ポーションは家用に少し購入しておいても構わないか?」
「あ、俺も」
「私も!」
増産の説明が終わると、購入希望者が列をなした。
家族の為に病気用ポーションを1本か2本を常備したいようである。
……本当に、病死のインパクトが強かったようである。
「我々は『錬金術師』系統ですからね」
「ああ、材料は人任せでいいだろ」
俺と桜花は『錬金術師』である。
よって、外回りは他のメンバーに任せる事になった。
俺達のパーティの場合、俺がいない穴はメイドサーヴァント3人娘が付いて行くことになった。アイテム集めが目的なので、『荷運び』改め『倉庫番』のローズマリーは活躍できるだろう。
ポーション製作はひたすら地味で、時間がかかる。
ゲーム上の設定で1本の製作に1時間かかるとあったが、小瓶一つに1時間もかけられないと大鍋で作ろうものなら、ちょっとした製作ミスによりすべて駄目にする危険性が非常に高くなる。
例えるならフリーハンドで1㎝の真っ直ぐな線を引く作業を1mの真っ直ぐな線を引く作業にするようなもので、許容誤差がどちらも変わらず1㎜に設定されていると言えば分かるだろうか? 治癒の薬はそのままだと大量生産に向かない。
もしも量産したいなら生産ジョブの≪量産≫スキルを覚えておく必要があり、それがあれば一度にたくさん作る事ができる。
残念ながら『筆者』には全く関係ないスキルだったため、俺は覚えようともしていないが。
俺のように量産に向かない者の場合は、1日のノルマが8本だけである。
それ以上はMPではなく集中力が持たない。これはゲーム的な仕様ではなく、経験からくる「ミスが出やすくなる条件」として設定したものだ。
スキルの有無に限らず人によってはそれ以上でも作り続ける事ができるので、より多く作ったらその分だけボーナスが出るようにしてやる気を出させている。
でも、それ以上に挑戦して失敗した場合はペナルティも課しているけどね。
そうしないと無制限に挑む馬鹿も出てくるから。
材料は無限にあるわけじゃないのだ。
「ああっ!?」
「やっちまったか……」
……無限にあるわけではないのだ。
想定外の事態が起こるかもしれないと思っていたけど、こういう時に限って嫌な想定外が重なるんだよな。